タバコ

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映画には、「功罪」があります。《娯楽》と言う面では、ただ面白く興味深く、夢を見ている様な経験ができます。自分ではできないことを、俳優が、自分に代わって、痛快に、手際よく悪者を打ち滅ぼしてくれるのです。子どもの頃に観た東映の時代劇映画で、奉行所から役人が、悪者を召し取りに駆けつける場面で、思わず手を叩いて応援していたのを、昨日の様に覚えています。

裕次郎が、長い脚を下の方から映された映像が、スクリーンいっぱいに映されて、ほんとうにカッコよかったのです。外国映画では、まるでそこに、旅行で出かけているような錯覚さえ感じてしまいました。ジェームス・デーンの左手のー人差し指と中指の間に、タバコが挟んであって、それを口にもって行き、煙を吐いている様子は、とても美味しそうでした。こう言うのを、《疑似体験》とか《代替体験》とでも言うのでしょうか。

私は、映画を観て、タバコを吸い出したのではないのです。もう小学生の頃から、タバコをくわえていたのです。前にも書いたのですが、父は、喫煙家で、<煙草盆>を持っていて、家の畳の上に、常に置いました。そこから煙草、マッチをとって、吸い始め、灰を灰皿に入れていたのです。家にいて、庭で草取りをしてると、『準、一本点けてくれ!』と言うので、私は、父の様なしかめっ面で煙草をくわえ、マッチを擦って火をつけて、庭にいる父に渡したのです。小学生の時でした。一口が、二口に、三口になって、とうとう煙草の味を覚えてしまったのです。

でも、その悪習慣を、25歳でやめることができました。お酒も、ついでにやめれたのです。それまで、ほろ苦い日々が、私にもあったわけです。交番の前に来ると、わざと煙を、高く吐き出して通るのです。決まって、呼び止められるわけです。『君、幾つだ?煙草を吸っていいのか!』と言われるので、ポケットから《学生証》をおもむろに出して見せるのです。お巡りさんの困った顔が見たくて、何度もかやったことがありました。

6月31日は、「世界禁煙デー」だったそうですね。《百害あって一利なし》、まさにその通りです。入院中、カップラーメンを何度かくださった方が、2カートンのタバコを持って入院してきたそうです。『院内でタバコを吸ってるのを見つけたら、即退院!』と言う、高校並の規律があって、看護師さんに退院まで預けて、その決まりを守っていました。彼は、『今度こそ禁煙します!』と宣言して、家に帰って行きましたが、どっちを続けているか、ちょっと心配している、年の暮れです。
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