生きよ

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 先日、家内が参加している短歌の例会があって、その集いの中で披露された短歌があり、「三日とろろ」と言うことを聞いて、家内が帰って来たのです。ここ栃木や群馬、茨城、そして福島(岐阜県や愛知県でもあるそうです)あたりで、正月の三日に、家族揃って食べる様に、正月の食卓に上る正月料理なのだそうです。

 母は、擦り鉢に山芋を入れて、擂粉木(すりこぎ)ですって作って、「とろろ汁」をよく食べさせてくれたのです。それで、よく知っていましたが、これに、「三日」が付く料理とは、どんな料理なのだろうかと、強い関心を示さないままで打ち過ぎていました。ところが、北関東や東北地方でよく食べることが分かって、一人のマラソン選手が、福島県の出身だったのを思い出したのです。

 それは悲しい出来事で知ったのです。上の兄と同じ年に生まれた方で、日本で初めてのオリンピック東京大会が開催れた時に、最終種目のマラソン競技に出場し、銅メダルに輝いた、円谷幸吉が、そう言われたのです。

 彼は、高校生の時に陸上競技を始め、卒業後、陸上自衛隊に入隊し、郡山駐屯地に所属していました。中央大学で学ばれ、体育会の陸上部に選手でした。当時の長距離競技の日本記録の保持者でした。選ばれて、マラソンに参加され、三位で銅メダルを獲得して、日本陸上界を大いに盛り上げた選手でした。

 その記録を持って、四年後にイタリアのローマで開かれるオリンピックの候補者として、大いに期待されて練習に励んでいたのです。ところが練習が激しかったのか、無理をしたのか、椎間板ヘルニアの手術を受けたのです。

 自衛隊の陸尉で、埼玉の朝霞にあった自衛隊体育学校に所属しておられて、精彩を欠いてしまって、走る気力がなくなるのと、周囲の期待の重圧などがあって、円谷幸吉は、『もう走れません!』と、書き残して。自死してしまったのです。当時、日本全体に衝撃をもたらせた出来事でした。

 期待されたスポーツ選手の精神的な重圧というには、大きそうです。柔道の猛者(もさ)と言われる選手が、オリンピックの試合が近づくと、お腹を壊してしまって、力を出しきれなかったりすることもあるのです。期待を担いきれずに、心体の調和のバランスが崩れてしまうことに原因がある様です。

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 『どうにかなるさ!』と思えない心の繊細さを、他の世界で表せるのに、そういった転換ができないのが問題の様です。スポーツのできる時間、活躍期間は短いからです。柔道や、マラソンしかできない人間ではなく、他の世界でも生きていける学びや経験が必要なのです。この円谷孝吉が、書き残した家族親族への遺書に、この「三日とろろ」の記述があったのです。

 去年の暮れに、ある方から、「自然薯(じねんじょ)」を頂きました。ちょうど次女が娘(孫です)と二人で帰省中で、それを使った、とろろ汁を作ってくれて、美味しくいただいたのです。それを正月三日にいただくので、「三日とろろ」と言うのです。この方のお母さんが作ってくれたのを思い出し、感謝したのでしょう。

 聖書で、人の造り主は、『わたしを求めて生きよ(新改訳聖書 アモス5章4節)』と人に呼びかけています。その反面、「死ね!」と、死に誘(いざな)う悪しきものもいるのです。どちらの声に聞くかで、生死が分かれます。どんなに辛くても、生きている限り、慰めや回復があるのです。卒業、入学の時期が近づいています。挫折したり、失敗したりするのありえる季節です。自分の前に開かれていく環境に、従って生きていくのです。

 人生には、挫折があります。どんなに活躍しても、どんなに賞を獲得しても、肩や腕や腰を痛めて、投げたり飛んだり走ったりできなくなってしまうことがあるのです。歳を重ねて、そうなることもあります。23歳の有望な野球のピッチャーだって、腕や肩を負傷して投げなくなって、かろうじて手術をして復帰しても、また負傷しないとは限りません。選手生命は短いのです。いえ、人生そのものが短いのです。


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 三日とろろは、長生きを祈念して食べる伝統食なのでしょう。年越し蕎麦も、長い物を食べて、長寿を願うところから伝わった風習なのでしょう。何でも美味しく、感謝して食べるのがいいに違いありません。父は、そう言った拘りや、風習を、自分の生活の中も持ちませんでした。ただ和菓子の「きんつば」を好んだ人でした。デパ地下などで、私たちを喜ばそうと、さまざまなものを買っては道帰って、『食え!』と言ってくれたのです。それでっhでしょうか、自分も、今や「きんつば党」なのです。

(ウイキペディアの東京オリンピック開会式、すり鉢・すりこぎ、きんつばです)

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