私と九つ違いのアメリカ人実業家が、『雅、女性と金銭と名誉心には十分に気を付けなさい!』と、随分と具体的な忠告をしてくれたことがありました。当時30代後半、こちらは二十代後半でした。男が人生を踏み違えてしまう誘惑が、異性と金と名誉だからでした。彼は彼なりに、そう言った事例を、多く見聞きしてきた上で、またご自分も猛烈な力を持って襲いかかってくる誘惑であることを体験していたからでしょうか。
『先ず結婚の契約の内側に、確りと留まり抜け!』と、そう決心してしまうことだと教えてくれたのです。中途半端な思いでは、怒涛のように押し寄せてくる、この手の誘惑に抗することができないからです。芸能界に生きる人たちは、「芸の肥やし」と言った詭弁で、自らの自堕落さを誤魔化す人もいるようです。スクリーに映し出される虚像の中で、自分を失ってしまいますと、平凡な<小さな幸せ>を失ってしまうのです。家庭を顧みなかった男が、惨めな最後を迎えている事例を多く見聞きしてきました。
またお金で人生を棒に振る男も、枚挙にいとまがありません。不正の額の問題は<五十歩百歩>なのです。『人は、働いた分、稼いだ分で生きる覚悟を決めることだ!』と教えてくれました。『もう少し金が・・・!』の思いが昂じてきますと、際限なく欲望にさらされてしまうのです。額に汗したり、頭脳労働で得た収入で、自分と家族を養い、将来のために備蓄します。さらに余裕があるなら、社会の弱者のために使ったらいいのです。ある時、親父の遺言書に、「一切れのかわいたパンがあって、平和であるのは、ごちそうと争いに満ちた家にまさる。」を見付けたのです。信頼し合う親子のいる家庭、たとえ貧しくとも幸せを実感させてくれる家族を持つことに違いありません。
『売名行為に躍起になるな!』と教えられました。虎は死んで皮を残すのですが、男には、自分の名を残したいという誘惑があるようです。「人の噂も七十五」と言うように、この時代を生きた人で、何人の人が百年後に、その人の名や業績を覚えていてもらえるでしょうか。曾祖父(ひいじい)さんの名前も、何をしていた人なのか、全く知りません。血族だって、そんな程度なのですから、他人が覚えていてくれるのを願うなんてナンセンスなことなのです。
<お二階>に上がる、その時に、納得できる一生を送っていたいと願うだけで<よし>としたいものだと、思い出したり感謝している一足早い夏休みに入った私であります。
(写真は、”WM”によるアメリカ合衆国の国花の「バラ」です)