ありがとうが言われたくて

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 1964年に、東京でオリンピックが行われました。戦時中に開催予定だった日本での大会が、第二次世界大戦の勃発で中止になって以来の懸案でした。焼土の中から立ち 上がって、戦後の復興を遂げた姿を、世界に向かってアピールしようと、開催されたのです。19歳の時でした。

 それから50数年後の2020年に、再びオリンピックが開催されました。そのための”presentation”が、2013年に行われています。その折、滝川クリステルさんが、[お・も・て・な・し]を掲げて、国をあげて、海外から来られる大会の役員、選手、観客を歓待しようとしたのです。この言葉は、その年の流行語大賞に輝いたほどでした。

 サーヴィス業界で、お客様へのあり方で、「おもてなし」と言うことが、注目され始めたのは、どの様な業界だったのかと考えますと、それはホテル業界だったのではないでしょうか。私の次兄は、日本に本格的な外資系のホテルが進出した時に、鉄道業界から転出して、そこにでルームボーイから始めて、管理職になりました。

 ルームボーイは、シーツを敷き替えるベッド作り、トイレや床掃除などが主な業務なのです。ホテルマンとしての第一歩から始めたのわけです。有名はロックミュージックのグループが初来日する時期の前だったと思います。アメリカン方式のホテル業務を、アメリカ人のジェネラルマネージャーから徹底的に教え込まれたと言っていました。その頃、兄から、この「もてなし」 と言う言葉を聞いたのです。

 日本の有名な観光地に、ホテルが開業していく時期に、そのホテル運営のために、将来ホテルを背負って立つ若いホテルマンたちが、そのホテルにl研修に来たのだそうです。どの業界でも、後発の企業は、経営も運営も、モデルと目される会社に学んでいく様ですが、日本的な伝統的なホテルも、サービスを売る業界ですから、鎬(しのぎ)を削りながら、そのサーヴィスで競争していくわけです。

 すでに就職先が決まっていた時期に、卒業まで間、そのホテルで、自分はルームボーイのアルバイトをしたのです。ただシーツを取り替えるだけではなく、敷いたシーツに、10円硬貨を落として跳ね上がるほどにしなければならなかったのです。たかがシーツ敷きですが、それがサーヴィスの第一歩、基本だと教えられたわけです。

 その兄の弟だと言うことを隠して、そこで働いたのですが、けっこう高く評価され、任される業務もあって、面白そうに感じて楽しく働いたのです。中高の恩師で、一緒に史跡の 発掘調査などをさせていただき、教育実習の担当でもあった先生の紹介でしたから、それを変えることはできなかったの、ホテル偉業会には残りませんでした。

 その仕事は、第三次産業であって、農林水産業の様な自然を相手にした。第一次産業は鉱業、建設業、製造業などです。第一次産業が採取したり、生産した産品を加工・生産する第二次産業とは違って、サーヴィスを売る産業です。応対といった接客で、客相手に笑顔で丁寧、そして満足して頂くような仕事なのです。

 兄自慢になって恐縮ですが、日本のホテル業界では、一万人の顧客をフルネームで覚えていると言うことで注目され、”Mr.Shake hand“と言われて、テレビや業界誌にも紹介されていました。大仰に[お・も・て・な・し]と言うほどではなく、兄の基本は、[ほんの少しのService]なのだそうです。それが一流のServiceにつながるからです。

 最近、上手な接客をされる方は多くおいでですが、中には、素っ気ない仕草でいる方が目立たないでしょうか。面白かったのは、中国で生活していました時に、お店に入って、物色している時に、店主とか店員の方が、『你要什么?何が欲しいのか』と、だいぶう違う語調で言い、付いて回るのです。『盗ませないぞ!』と言う、接客と言うよりは、警戒心と抑止力を目に含ませて、後に付いてくるのです。

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 どうも、あちらでは『盗まれる方が悪い!』と言う考えがあるので、警戒心丸出しなので、あれは接客ではなく監視だったのです。それが普通ですから、悪気ではないのです。でも、イギリスやフランスやアメリカの「超市(chaoshiスーパーマーケット)」ができ始めてからは、『欢迎(huanyingいらっしゃいませ)!』と言う様に接客が変わっていきました。

 でも、最近の傾向は、愛想が良くない様に感じられるのですが、こちらの客の態度が悪いのかなと思ってしまうほどです。それとは反対に、幼稚園生や小学生が、横断歩道を渡り終えると、一旦立ち止まって、止まってくれた車と運転手に向かって、頭をさげて挨拶をしているのを、この街でも、よく見かけます。自転車族の私が、自転車を止めて道を、彼らに譲ると、挨拶や会釈をしてくれます。

 これは「おもてなし」ではなく、「感謝」なのでしょう。この感謝は、社会の中の「潤滑油」なのですね。人が人と関わる時に、和やかさや安堵感を与えられるのは、心と心の触れ合いであって、相手への感謝こそがいちばんの絆、関わりになるのに違いありません。

 “ hospitality ”と言ったり、”treatment”とか“reception”とかに、日本語にが訳される言葉ですが、ホスピス、ホスピタルも、やはり、「もてなし」の一環なのでしょうか。この一、二年、病院通いが多くなってきて、それなりに老齢期を迎えている自分ですが、今でも、ちっとした気遣い、言葉に、元気にされるのを実体験しているのです。もしかすると投薬された薬や医療行為よりも、効果があるのは、ちっとした眼差しや仕草や言葉なんだよな、と思ってしまうのです。

 安心して病院から家に帰って来るので、心を安んじられる存在や時こそが、究極の「おもてなし」かも知れません。受けたら、どなたかにお返ししたいと思わせられます。兄のホテルマン人生は、『ありがとう!と言われたかった!』と言っています。たったの一言の「『ありがとう!』に、驚くほどの力が込められているか知れません。

(”いらすとや” 、”イラストマン“のイラストです)

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