木槿

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 散歩道の巴波川沿いの人工池の端に咲いている、木槿です。朝に咲いて夕方には萎れてしまいますが、次から次へと木に花をつけていく「逞(たくま)しさ」を持った花なのです。樹皮は漢方薬に用いられて、中国でも朝鮮半島でも重用されてきた木です。

 道のべの 木槿は馬に 食はれけり   

 この俳句は、松尾芭蕉が「野ざらし紀行」で詠んだものです。馬は、花を眺めるのではなく、胃の具合が悪く、その木皮をついばんだのでしょう。この「木槿(むくげ)」は、艶やかではないのですが、おしゃれも忘れなく、ほんのりと紅を加えた白い花が、わたしの気に入って、好きな花の筆頭になっています。

 生まれ故郷の盆地に入る、インターチェンジの側道に植えられていたのが、この花でした。今の季節に、出掛けて帰ってくる時に咲いていました。『お帰りなさい!』と言っているように、運転しているわたしを、喜び迎えてくれたのです。

 中央道が開通する前は、山道を走って国道を抜けると、山々に囲まれた盆地も、『おひさしぶり!』と声が聞こえるようでした。27の歳に、家内と生まれて2ヶ月の長男を伴って、心機一転、移り住んだ故郷の街で、長女、次女、そして次男が生まれました。そこでは、徳川家の紋章で有名な「葵(あおい)」の花も咲いていました。山道を抜けると、生まれた山の中が、遠望できて、まさにふるさと回帰でもありました。

 そんな日々を思い出させる花なのです。ポッと頬を薄紅に染めて出迎えてくれたのかも知れません。36年も過ごした街は、生まれてからの7年を足しますと、43年も住んだ地なのです。そこを出て中国で13年生活をし、今また、下野国の栃木に住み始めて3年あまりになります。ここが、《終の住処》になるのでしょうか。葵が咲き終わり、今まさに木槿の咲く夏なのです。

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