先月のことです。久し振りに、『抱いてみてください!』と言われて、赤ちゃんを腕の中に抱き取りました。生まれて三十日目でしたから、「嬰児」と言うのでしょうか、もう抱く感覚を忘れていました。『うわー、ちっちゃい!』と言うのが、その時の正直な気持ちでした。誰に抱かれても、自分を全く委ねてスヤスヤと眠っている寝顔をのぞきこんで、自分にも、こうやって抱かれて、誕生を祝われたことがあったのだと思わされたのです。
抱いてくれた父や母や産婆さんたちは、時が移って、もういなくなってしまいました。そして今、そうやって人の誕生を愛でて、祝福できる自分であることを思うと、ちょっと不思議な感覚に襲われるのです。
今日は、長女の誕生日です。当時住んでいた町に「授産所」があって、お産婆さんが、この子を取り上げてくれたのです。『いいボコが出たじゃん!』と産着を着せられた娘が、家内と私のいる部屋に、お産婆さん抱かれて連れられて来ました。『ボコ!』と聞いて、男の子だと思いきや、その地方では、赤ちゃんをそう呼んだのです。それで私たちは、『また男の子が与えられた!』と思ったのです。ところがオムツを替えた時に、女の子であることが分かって、驚いてしまいました。
空腹の時に、『オッパイを!』と泣くだけで、いつもはスヤスヤと眠っていたのです。その他には、ほとんど鳴き声を聞いた記憶がないほどでした。病気もしないで、手のかからない子どもだったのです。物怖じをしないで、何でも自分で決めてするのです。人の面倒見が好くて、後に生まれて来た妹と弟の世話をよくしてくれました。そればかりではなく級友や学校の先生の相談にも乗るほどでした。
そんな性格、個性、賜物、生き方で育って行きました。それで今、シンガポールで生きているのです。在シンガポール九年だそうで、今秋には新しい任地に転勤する予定でいます。『来て!』と言うので、家内とやって来ています。日本食を懐かしんでいる両親に、十二分に心配りをしてくれています。お腹が満足をするだけではなく、親子の交わりができるのが最高の喜びで、長女と、それが叶えられております。
さらに祝福されて生きられるように願って、昨晩は誕生会の前夜祭を持ち、娘を祝福することができました。今日は、娘の友人が誕生会を開いてくれるとのことで、その前日を、三人だけで、そうして過ごしました。親子っていいものですね。長男と次女と次男とは、なかなか誕生日を共に祝う機会がありませんが、いつか叶えられることでしょう。おめでとう!
(写真は、母娘で調理した誕生前夜祭の食卓の料理です)