不測の事態に

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結婚をする前だったでしょうか、ニューヨークの学校で教師をしている方の講演会が何度かあって、聴講したことがありました。この方は、ギリシャ系のアラブ人だったと聞いていましたが、若い時にはボクサー(拳闘家)だったことがあったり、面白しろい経歴をお持ちでした。何時でしたか、親しくなった私に、『マサ、髪の毛を刈ってあげよう!』と言って、ハサミを取り出して刈ってもらったこともありました。結構上手だったのです。

この方の講演の中で、自動車製造の工程に関わる話をきいたことがありました。デトロイトは、アメリカ自動車産業のメッカで、かつては活況を呈していた街でした。生産工程の中に、製造ライン方式を取り入れており、作業ラインの中で、ポイントごとに組み立て個所が違っていて、分業をしているのです。人が関わっていますので、<不測の事態>が起きて、この流れ作業が滞ることがあるのだそうです。

そう言った事態の対策が取られているというのです。このラインを見下ろせる工場内のある所に、特別室が設けられています。そこには数人の人がいて、普段は、本や新聞を読んだりしていても好いのです。一日中、何もしないで終える日もあります。ところが、組み立てラインの中で、作業員が怪我をしたり、体調不良になったりして、そこを離れなければならなくなった時に、作業の穴が生じます。その時に、<すわ鎌倉!>で、待機中のこの人が、その現場に駆けつけ、作業を担当するのです。そうするならラインを止めることなく、作業を継続できるわけです。

この作業員のことを<ミニットマンminite man>と呼ぶのだと、この方が言いました。この特別職の人は、どの部署の作業でもこなすことのできる技術者なのです。これは40年以上前の自動車工場の一コマですが、こう言った特別技能者が、どの世界にもいて、<不測の事態>に対応していたわけです。今も、きっとこう言った方々がいて、流れ作業が行われているのでしょうか。この興味深い話を、今でも、よく覚えております。

(写真は、WMによる、ニューヨークにセントラル・パークです)