「キャッチボール」という題の歌があります。平井堅の作詞作曲です。
夕暮れの坂道を 大きな背中と歩く
グローブを抜いた左手 皮革(かわ)の匂いが残る
どんなに加減しても あなたの球は速くて
逃げ腰の僕を茶化して 永遠に微笑んだ
「元気で暮らしてるか?」と
書かれた手紙 受け取る度に
独りでこらえた涙たち 止まらなくなるよ
僕の年頃にはもう あなたは家庭を築き
守るものがある強さに 僕はとてもかなわない
ごめんね この口唇(くちびる)は 嘘で誰かを傷付けるけど
いつもの優しい瞳で僕を 叱ってください
「元気で暮らしてるか?」と
書かれた手紙 越えてゆくため
今度は「元気だよ」と強く 返事を書くから
これは父親とキャッチボールをした記憶の中から詠んだ歌なのでしょう。私にも同じ記憶があります。着物に下駄履きの父が、グローブを右手にはめて、軟球を放り投げている姿が、鮮明に思い出されてきます。もう何十年も何十年も前のことです。まだ未舗装 だった家の前の坂道の上で、時々キャッチボールを、父としたのです。父は、四十代の盛りでした。
沢村栄治とかスタルヒンがプレイしていた時代のプロ野球のフアンだった父です。今のように様々な種類のスポーツのなかった父の時代で、メジャーだったのは野球だったのでしょう。きっと時間を見つけては試合観戦に行っていたに違いありません。『かっとばせ!』とか言って声援していたのかも知れません。
四人の男の子とキャッチボールをしてくれた時、ボールを投げるたびに、『大きくなれよ!』、『健康に育てよ!』、『愚れんなよ!』との思いが込められていたのでしょう。結構強い球を父が投げていたのです。そんな手の痛みの記憶が、ギリギリのところで、愚れきれなかった抑止力になっていたに違いありません。こちらにも<子煩悩なお父さん>がいて、一人っ子と遊んでいる光景を、よく見かけます。
あちこちで生活している息子たちや娘たちに、『元気に暮らしているか?』との思いを放っている6月18日の朝であります。
(イラストは、”ダカーポマガジン”からです)