フンザ

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 「 主よ。あなたのみわざはなんと多いことでしょう。あなたは、それらをみな、知恵をもって造っておられます。地はあなたの造られたもので満ちています。 (詩篇104篇24節)」

 先月、図書館から、写真家の齋藤亮一氏の写真集「フンザへ」を借り出して見ました。2005年に刊行されたもので、素朴な山村の自然や人々の生活の様子が映し出されていて、まさに、そこは杏やアーモンドの花の咲く「桃源郷」なのです。

 この「フンザ」は、〈弓矢を持つ人〉と言うのだそうで、パキスタンに属しています。アフガニスタンと中国の国境を接していて、中央アジアの山岳地帯に位置し、かつては王国だったのです。ブータンなどと同じ様な王政が行われていたのですが、1974年に王政を終えています。

 この「フンザ」を知ったのは、1990年代の後半に、宮本輝が毎日新聞に連載した「草原の椅子」と言う小説を読んででした。後に、映画化もされていますが、あのシルクロードの北ルートにある、日本列島と同じほどの規模の「タクマルカン砂漠」を西に行く山峡の地にあって、山の美しい景観を見たいと願う人には、願ってもない訪問地なのです。
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 映画化された時の映画評に、

 『バツイチで、年頃の娘と二人暮らしの遠間憲太郎に、50歳を過ぎて三つの運命的な出会いが訪れる。ひとつは、取引先の社長・富樫に懇願され、いい年になってから親友として付き合い始めたこと。もうひとつは、ふと目に留まった独り身の女性・貴志子の、憂いを湛えた容貌に惹かれ、淡い想いを寄せるようになったこと。3つめは、親に見離された幼子、圭輔の面倒をみるようになったこと。憲太郎、富樫、貴志子の3人は、いつしか同じ時間を過ごすようになり、交流を深めていく中で、圭輔の将来を案じ始める。年を重ねながら心のどこかに傷を抱えてきた大人たち。そして、幼いにも関わらず深く傷ついてしまった少年。めぐり逢った4人は、ある日、異国への旅立ちを決意する。そして、世界最後の桃源郷・フンザを訪れたとき、貴志子が憲太郎に告げる。「遠間さんが父親になって、私が母親になれば、あの子と暮らせるんですよね」』(「映画の時間」から)

 まさにフンザに誘われる様な小説であり、映画でした。華南の街からだって行けそうで、南のルートでパキスタンからも行けるのですが、北のルートで、中国の新疆ウイグルに電車で行き、バスに乗って、タクマルカン砂漠を経て訪ねる計画を立てましたが、実現されませんでした。

 「絹の道」を旅した商人たちは、飛行機も電車もバスもない時代から、ラクダに荷を載せて、歩きで往復をしたのには、驚かされます。お金のためだけではなく、美しい自然や季節の変化を感じる、なんとも言えない創造の世界に感動を与えられ、冒険の旅を好んだのかも知れません。二十一世紀人だって、神の創造の世界に、もっと分け入って、この両足で立ってみたいと願うのは当然でしょうか。

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