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読み始めて、途中で頁を閉じてしまいました。カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」という小説です。『ノーベル文学賞を取ったイシグロさんの本を読んで見たいの!』と言った家内のために、昨秋帰国時に買い求めたものでした。彼女は一気に読んでしまい、私にも勧めたので、読み始めたのですが、読み進められませんでした。
小説など、読んでいる姿を、46年の間見た事がない家内でしたが、文章の作り方、言葉の選びが優れたイシグロ作品、さらに優れた翻訳に驚いていて、その内容を、少し教えてくれたのです。ある学校のクラスの様子から書き始めているのですが、その学校の子どもたちは、ある日、"ドナー(臓器提供者)"になる「運命」を負いながら、学校生活を続けるのです。それは実際は、特殊施設でした。
捕虜や誘拐されたり、死刑囚たちから「臓器」を取って、希望者に移植する話は、現実に話として聞いた事があります。また、「スマホ」が欲しくて、臓器を売ってしまう青年の話も聞いた事があります。このカズオ・イシグロの話は、小説上の話で、架空ですが、何か現実味がある様で、怖くて読めなかったのです。
地球の何処か片隅で、お金目当てに、また科学者魂で、《闇移植医療事業》を展開しているのではないかと思ったら、怖くなったわけです。小説の施設の子どもたちにも、将来の夢があり、愛する人にも会いたい願望があるのに、人としての夢は叶えられずに、臓器提供後は死んでしまう運命にあるのが驚きでした。
作品では、その子どもたちが「クローン人間」なのです。カズオ・イシグロが着想を得たのは、1996年にイギリスで、「クローン羊」が誕生した頃だった様です。将来起こりうる「クローン人間」への危惧を感じて、警鐘の様に書き上げたのでしょうか。そうしましたら、今度は、中国で「クローン猿」が二頭、生まれているというニュースがありました。「生命」の領域に、人間の科学が踏み込んでしまって、取り返しがつかない事になるのではないかと、恐れます。
わたしを離さないで」の主人公の"トミー"は、どうなってしまったのでしょうか。心配でなりません。「生命操作」のことを考える時に、「スパルタ」や「ナチス」が行った《弱者切捨》、《役立たず抹殺》を思い出してしまいます。《強く優秀なもののみが生きられる社会》ではなく、弱者と思われるみなさんと一緒に生きていくべきでしょう。《《生命倫理》》の上で、人間が、これ以上に傲慢にならないことを切に願う二月です。
(カズオ・イシグロの出身地・長崎の「眼鏡橋」です)
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