淡き香り

 

 

“プルースト効果”について、こんな記事がありました。

『交通事故で記憶喪失になった少年は、親友の名前や親すらも思い出せないことが続き、10年近く記憶が完全に回復することがありませんでした。しかし、ある日突然に記憶の一部を取り戻すことが出来たのです。そのきっかけが香りと記憶の強い関係を指し示すものでした。

それは、街で塗装作業のシンナーの香りを嗅いだ時に起こったのです。 塗装の香りから彼が思いだしたのは、プラモデル、そしてそれを作っている部屋。さらに友達の顔と連鎖的に思い出してゆき、どんな治療をしても思い出せなかった記憶が香りによって蘇ったということがありました。』

この様な記憶喪失でなくとも、ある匂い、香りを嗅いだ時に、記憶や、ある場面が蘇ってくることが、私にもあります。多くの時、それは淡いかすかな匂いや香りの場合が多いでしょうか。秋になると、決まって「金木犀」の香りがしてきて、小学校の時の通学路とか、あの頃のことが彷彿とされてくるのです。

その他にも、何かの香りがしてくると、父の家でのこと、兄弟や母のことを思い出すことがあります。秋刀魚の煙と焼く匂いは、高校の頃、ハンドボールをしていた頃の学校のグラウンドの秋の夕暮れの光景が、フーッと浮かんでくるのです。走馬灯のように、あの頃の出来事、通学路の道筋、級友たちの顔、教室の様子も思い出されてくるのです。勉強のことが思い出されないのはどうしてでしょうか。

ある匂いは、ただ遠い過去に嗅いだ記憶だけがあって、ただ懐かしくなってくることだってあります。嗅覚だけではなく、味覚も同じ、記憶を蘇らせることがあります。フランスの小説家のマルセル・プルーストが、紅茶に浸したマドレーヌを口にした時に、ふと、過ぎ去った日々を思い出したことに因んで、「プルースト効果」と呼ぶようになったそうです。

あまり拘りはない方なのですが、”アールグレイ”の紅茶は、初めて飲んだ時の香りが、何かを私の記憶の内にあったことを思い出させたのでしょうか、これを毎朝飲む習慣がついてしまいました。今、棚に買い置きがなく、ほかの紅茶で間に合わせて飲んでいるのですが、何か落ち着かないのは、その所為(せい)なのかも知れません。

この月曜日の夕方、生まれて1年の女の子が、ご両親と、わが家に来て、一緒に食事をしました。この子の頬や腕を指でつっつくと、何かとても好い気持ちになってきてしまうのです。これが好きで、時々してしまうのですが。自分の子どもたちの肌が幼子のように、柔らかかった頃を、指の記憶を蘇らせてくれるからでしょうか。

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