しばらく平地でばかり生活していましたから、私たちの住んでいる町を見下ろせる山に、先日、連れていってもらって、じつに清々しい気持ちを味合うことができました。都会から離れるといった点で気分転換になったからでもありますが、山には、独特な空気が漂っているのではないでしょうか。昔人間が吸っていた空気のことです。化学物資によって大気が汚染されていないもので、光合成が活発に行われている木々の中で、懐かしい自然の匂いが立ち込めている、そん中で吸った空気のことです。山里に行くと、自分の居場所に戻ったようなやすらぎと、原点回帰の落ち着きを感じてならないのです。生まれたところが、鬱蒼と木の生い茂った山と山がせめぎ合った山村だったからかも知れません。
残念だったことは、舗装された山道を車で登っていくといったことでした。登山は、息を弾ませながら、急峻な登りの道を、一歩また一歩と歩むところの醍醐味があるのですから。そんな山行きの正道からは離れてしまったのは、物足りなかったのですが、それでも車を降りて、山の裾野を眺めていると、スーッと吸い込まれてしまいそうな感覚に陥って、山の気分でした。やはり、『山はいいなあ!』の心境だったのです。新緑のころも、紅葉のころも好きですが、一番は、冬の枯れ草や枯葉を踏みながら、山道を歩くというのが最高に楽しいのです。葉が落ちていますので視界もいいし、葉の枯れかわいた臭いがしますし、空気が美味しくて、「森林浴」に身をひたせるのは最高です。
もう何年も前に登った「入笠山(にゅうがさやま)」は、頂上の展望が360度のパノラマでした。その日は秋晴れでしたから、青い空が抜けるようでした。山梨県と長野県の県境にある山で、二度目は、12月の週日に、家内と登ったのですが、危なく、『山を見くびった初老の夫婦、凍死、遭難!』と言ったニュースになりそうでした。その週に、平地で降った雨が、山では雪だったのです。何度も転倒しながらの下山で、泣きたくなってしまったほどでした。でも無事に帰宅しましたので、今、生きておられるわけです。
もう12月も半ばに入っているのですが、街路樹には、黄色や淡い桃色の花をつけた木の梢が、初冬の陽をうけてじつに綺麗な、華南の冬の佇(たたず)まいです。その一つ、薄桃色の花は、「紫荊花」とか「羊蹄花」と言われ、もう一つの黄色い花は、「黄槐花」です。一年中、花が咲き、木々の葉が青くしげる、ここの自然は、「創造の美」でしょうか、美しいの一言につきます。
〈写真上は、「黄槐花」で、下は、「紫荊花」、日本人は「香港桜」と呼ぶのだそうです)