「実力伯仲」、この「伯仲」を、goo辞書で見てみますと、『1 兄と弟。長兄と次兄。2 力がつりあっていて優劣のつけがたいこと。「実力が―する」「保革―」』とあります。同じ時代に活躍してたライバル同士が、力を競う合ったことを言うようです。プロ野球では、セ・リーグで長嶋茂雄が活躍していた時に、パ・リーグに野村克也がいました。この二人は同学年です。スター性は長嶋がはるかに勝っていましたが、実力や達成した記録の上では、野村が上だったのではないでしょうか。長嶋は、名門巨人軍のプロ野球選手で、大学時代から、将来を嘱望されて、マスコミに追われていました。ところが、京都府下の無名の府立峰山高校で野球をしていた野村は、南海ホークスに「テスト生」として入団した選手でした。戦力外通告を受けながらも、辛抱して入団4年目にパ・リーグのホームラン王に輝くのです。そして大選手になっていきます。
この野村克也が、『長嶋が向日葵なら、俺は日陰に咲く、月見草!』と自分を卑下し、自虐して語るのを聞いたことがあります。その形容は、正しかったのですが、野球通には、長嶋よりも、野村びいきの人が多かったのではないでしょうか。天覧試合でホームランを放つといったような派手さは、野村にはなかったのですが、面白い野球をした方でしたし、引退後は、幾つもの球団の「監督」を歴任して、好成績を残しています。今では、辛口の《ご意見番》といった役割を演じておいでです。長嶋の出るジャイアンツの試合はテレビ中継されていましたが、野村のいたパ・リーグの試合は、金にならないとのことで、テレビ局は、その試合は放映していませんでした。天性の野球センスのあった長嶋と、地道にコツコツと歩んできた野村は対称的だったのです。
この「実力伯仲」ですが、銀盤を滑る《フィギュアスケートの世界》にも、ライバルと言われる二人がいます。日本の浅田真央と、韓国のキム・ヨナです。昨今、日韓の関係が思わしくないのですが、スポーツの世界は、政治色や外交色抜きで、楽しむべきではないでしょうか。この二人とも、甲乙をつけがたい稀代の名選手です。同じ時代に、ほぼ同じ世代で、競いあうというのは、素晴らしい機会だといえるのではないでしょうか。『相手がいるから励む!』ということが、彼女たちの能力を、さらに引き上げているわけです。
日本では、浅田真央だけが応援されていまして、キム・ヨナを酷評する傾向があります。偏見や行き掛りでではなく、同時代のライバルの二人として、両者にエールを送りたい、私は、そう思っております。まだ一度も実際の競技を見たことがありません。ただテレビのニュースで見たくらいですが、機会があったら観戦してみたいのです。あの硬い氷の上を、刃物を履いて滑るスリルと、シューシューという氷上を駆ける音は、小気味良いからです。だれも観ていない所で地道に練習している二人が、次のオリンピックの晴れ舞台で、素晴らしい伯仲戦を見せて欲しいと思うのです。その影で、韓国と日本の関係が、改善されていくことを願いたいのです。
初めてソウルを訪ねた時に、『あなたのバス代を払わせ下さい!』と言ってくれた韓国人青年のことが忘れられないのです。自分が所属している会社を誇りに思って、その会社を訪ねようとしていた私と友人のバス代を払ってくださったのです。私の同級生にも、韓国籍の方がいて、講義ノートを写させてもらったり、彼女の友人が作ってきてくれた弁当をごちそうになったこともありました。みんな、今は何をしているのでしょうか。ちょっと知りたい思いがしてくる、師走の中旬の宵であります。
(写真は、「月見草」です)