好きな野菜は「トマト」

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 よその家の庭に、赤く熟したトマトを見つけた子どもの私は、あたりを見回して、そっと一つ失敬して食べた夏の日のことを思い出します。美味しかったのです。そういったことを許してくれた時代だったようです。何ともいえない青臭い、トマト独特の匂いがしていました。ああいった臭いが、ほとんどの果物や野菜から消えて行ってしまうのは、品種改良をしているからなのでしょうか。最近のトマトは、異常に甘かったり、大きかったりしていますが、昔のほうが美味しかったのは間違いありません。

 何度か家庭菜園で、トマトを苗から育てたことがありました。ナスは栽培が簡単なのですが、トマトは、結構難しかったように思います。もぎたての初生りを食べたときは、ほんとうに美味しかったのです。こちらでも、『〇〇産が美味しい!』と言われていますから、きっと土の質に関係もあるのかも知れません。時期によるのでしょうか、異様に皮が硬く、実も堅いのは、土が肥えていないからなのでしょう。こちらでは、「西紅柿」とか「蕃茄」と呼んでいます。アンデスで栽培され食用にされていたのが、ヨーロッパに持ち帰られ、そこから種として中国に伝えられ、海をこえて長崎に伝わったのは、江戸時代の1660年代半ほどだったようです。はじめは観賞用だったそうですが、食用とされたのはご維新以降のようです。

 私の大好物も、御多分に洩れず大陸渡来の経緯があるのです。こちらで面白いのは、「ミニトマト」が最近みられますが、これは、野菜売り場ではなく、果物売り場で売られる「果物」なのです。大きいサイズのトマトは八百屋で、ミニサイズはくだもの屋で売っているのが、不思議でたまりません。時々、料理をするのですが、カレーに入れたり、ラーメンに入れたりして食べます。熱湯につけて皮を向いて、それを細かくして煮込むと、実に押ししいラーメンとカレーが出来上がります。

 家内が、今、4人ほどの中学生に、日本語を教しえているのですが、〈昼食付〉で、大体は、料理当番に私がされています。スーパーで、日本ラーメンを売っていまして、それを使って作ります。鍋に、玉ネギ、長ネギ、しめじ、キャベツ、ニンニクなどを入れ、それにトマトを加えてスープを作ります。鶏肉、豚肉、牛肉、ベーコンの4バージョンがあります。結構人気で、美味しそうに食べてくれます。カレーは、日本のカレールウを使います。こちらの大きなスーパーには売っていますので入手可です。これにもたっぷりのトマトを入れるのです。ちょっと酸味が強くなって、自画自賛ですが、実に美味しいのです。

 中学や高校の門の前で、沢山の屋台が出店して、下校時の学生さんたちに、様々な食べ物が売られているのですが、このカレーとラーメンをやったら、きっと人気が出ると思うのです。それで、『この屋台だそうか!』と、家内に提案すると、『こちらに来た目的は?』とやり返されてしまいます。あっ、そうです、〈トマトケチャップ〉も大好きなのです。ラーメンのレシピに使っている野菜を、このケチャップと玉ねぎやリンゴやニンニクを、ミキサーにかけて、これを煮込んで自家製のケチャップを作るのです。これを先ほどの野菜に絡めて、炊きたての御飯や、麺にかけて食べるのも美味しいのです。

 毎朝欠かさないで食べるのが、このトマトでして、家内も私に付き合って、トマトが好きになってきています。冷蔵庫に買い置きがなくて、食卓に並んでいないと、一日が始まらなくなるので、急いでスーパーに跳んでいって、買い求めてきます。『同じ物ばかりを食べてははいけない!』と言われますが、ビタミンCやAやリコペンが多い野菜で、体には大層いいのだそうです。トマトの歌もありましたね(荘司武・作詞、大中恩・作曲)。

トマトって かわいいなまえだね
うえからよんでも と・ま・と
したからよんでも と・ま・と

(写真は、エクアドル(南米アンデス)の山地です)