良品

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 この地で増えているものが、3つあります。1つは、「自動車」です。最初に中国に来た時、北京でも上海でも広州でも、自転車のほうが多かったと思います。自動車が増えたからでしょうか、信号も多くなっています。2つは、「乳母車」です。おばあちゃんやお母さんが、子どもを乗せて、道路を行き来しているのを、よく見かけます。それとともに、「幼稚園」が、あちこちにできて、園庭から遊びに興じる園児の声が聞こえてきます。3つは、「くだもの屋」です。7年前に初めて来ました時に、スーパー以外で果物を買うことは、ほとんどありませんでした。街中にはくだもの屋さんがなかったからです。その店頭に、輸入果実が増えているのです。バナナもフィリピンからの輸入があり、ドリアンやマンゴスチンの果物の王様や女王様が並んでいるのです。

 変わったものが3つあります。1つは、「道路」です。路側帯ができ、道路の中央部に区分の柵ができているのです。2つは、「建物」です。古い建物が壊され、階数の多いアパート群に建てなおされているのです。3つは、「服装」です。子どもたちと婦人の服装が大きく変わってきています。ブランド品の子供服を着ていますし、多くの女性がスカートをはき、”anan”に掲載されているモデルようなカラフルな洋服を来て、街中を闊歩しておいでです。

 ある時、わが家に遊びに来られた先生の一人が、わが家の子どもたちの古写真を見て驚いておられました。『私の子供時代の写真は、ほんとうにダサかったのに、お子さんたちの昔の服装は、今までも通用していて、新しい感じがします!』と言っておられたのです。日本は時間をかけて変わってきたのですが、こちらでは急速な変化が見られるからなのでしょうか。スーパーには、日本式ラーメン、日本式うどん、ヤクルトが普通のケースに並べられていて、「輸入品コーナー」ではないのです。多くの商品の箱や袋には、日本語が記されているのです(先月の騒動以降は注意してみていませんが)。『美味しい◯◯』とか『たべよう』とかです。日本製品の良さが、正当に評価されているからに違いありません。日本の企業努力が、こちらのメーカーに良い影響を与えて、そのように表記されているのです。『この商品は、すばらしいんですよ!』とアピールぢようとしているのでしょうか。

 日本に対する、こういった評価は、市井のみなさんに、浸透していることになります。車にしても、トヨタ、ホンダ、三菱、スズキ、マツダなどの日系企業が製造したものが、多く走っていますし、私たちの住んでいるアパート群の駐車場には、駐車されている車の半数ほどが日系の車なのではないでしょうか。このように〈良品〉を造って、提供してきた日本の企業の誠実な影響や努力を誇りたいと思っています。その努力が、無に期することがないような、再びの友好の輪が広げられていくようにと願う、「国慶節」の休みの週の火曜の夕方であります。

(写真は、ドリアン、中国語では「榴莲liulian」と呼びます)

好いもの

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 『〈線香花火〉が好きだ!』という人が、よくおいでです。夏の夜空に打ち上げられて、景気よく炸裂する〈尺玉花火〉と比べて、まことに地味な花火です。チマチマしていますが、実に情緒があり、今、思い出すと、とても懐かしいものの一つに数え上げられ、私も好きなのです。

 江戸時代からある、三百年の伝統的な日本の花火の一つです。火薬でできている火球から、〈松葉〉の様に火花が小さく散るのです。手に静かに持って、火球から飛び散る火花を楽しみ、なるべく長く続くような祈りがこめられていたのです。父が買って来てくれた花火の中に、これがあって、遊びの最後に、これに火をつけてもらっては、消えてしまうまで、しゃがみながら見つめていたものです。

 六十年の人生を振り返ると、どうも〈線香花火〉の様に地味で、小ぶりだったのではないかと思われます。もうこれからは、大玉を打ち上げるようなこともないのでしょうけど、まあまあ満足しながら今を迎えたといえるでしょうか。大陸の上海で、花火師として活躍した小説の主人公に憧れて、〈花火師〉になろうとさえ思いながらも、それも叶えられませんでした。しかし与えられた仕事に満足して、自分なりに『やった!』と思ってきております。これは、同級生たちとの比較ではありません。若かった日に心に宿っていた〈大志〉は成就しなかったことでもありません。天職を得て、それに忠実に従って、社会的な責任を果たし、四人の子どもたちも育て上げれたこと、家内と一緒に歩んでこれたことは、ささやかながら〈成功的人生〉だったと思うのです。

 そして今、その仕上げの日々を、異国で、家内と励まし合いながら過ごしていることも、また、不思議な思いに駆られております。多くの友人たちが与えられ、生活にも慣れ、寂しい思いもしないで過ごせるのは感謝なことであります。もう、おととしになるのですが、多摩川の河川敷に設けられた席に座って、打ち上げ花火を鑑賞しました。息子が、一等席を買って招待してくれたのです。『遠くから見る花火がいい!』との長年の思いを覆させられるほど、近く、いえ頭上に花開く花火と炸裂音は豪快でした。それは素晴らしい時でした。そして幼い日の〈線香花火〉も、また好かったのです。それぞれに愛がこもっていたからでしょうか。

 浅草あたりに行けば、買えるかも知れませんね。今度帰国したら、庭先に出て、しゃがみこんで、この〈線香花火〉に興じてみたいものです。「国慶節」を迎えて、あちこちで花火があげられていました。一瞬の閃光、刹那の輝きですが、暗い夜空を明るくしてくれる風物詩は、瞬間ですが心も照らしてくれて、やはり好いものです。

終の棲家考

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 最近、『帰国しなければならなくなったら、どこに住もうか?』と考えているのです。もう数年後には、そうしなければならないかなと思っているからです。つまり、〈終の棲家(ついのすみか)〉を決めるべきかも知れません。家を持っていないというのは、自由に居住地を選択できるということになりますね。南信の飯田を行き来していて、帰りに高速道に乗らないで、一般道を走っていて気に入ったのが、「駒ヶ根」でした。南アルプスと中央アルプスに挟まれた高原地帯で、実に静かな街でした。野菜や果物が豊かに収穫されて、蕎麦がやけに旨く、空気と水が美味しい土地なのです。『でも冬場が寒そう!』と、心配して迷うくらいですから、本気ではないのかも知れません。

 岩手県に、「岩泉」という街があります。2010年に、土砂の崩落で脱線事故が起き、運行を休止していた、「JR岩泉線(盛岡と宮古経由で釜石を結ぶ山田線の茂市と岩泉を結ぶ鉄道です)」は、そのまま廃線が決まったようです。かねがね、このローカル線に乗りたいと思っていたのですが、その夢も叶わなくなってしまって、今は、回れ右してしまいました。昔、貧しかった岩手県のこのあたりは、口の悪い人に〈日本のチベット〉と言われたほど、風光明媚な所なのです。電車に代わって、バス路線があり、盛岡から行くことができますが、鉄道の楽しみがないのは残念で仕方がありません。ここも寒そうですね。

 山歩きが好きでしたが、海も好きですし、あの潮騒(しおざい)が私を呼んでいるので、海辺の町に住んでみたい気もしているのです。小田原とか、葉山とか、西伊豆とかですね。父が生まれ育った横須賀もいいなと思うのです。でも去年の東日本大震災の折の〈津波〉のことを考えますと、海辺はちょっと危険かなと思ってしまいます。富士山の火山爆発が予測されていますから、二重に危険でもあリますので、なんとなく躊躇してしまいます。原子力発電所の周辺も危険ですし、風下になる土地だって、安心できません。東京の首都圏の地震が騒がれていますから、これも敬遠したほうがいいかも知れません。今は健康ですが、病気になったら、近代医療機器の整った病院のある、大都市周辺がいいわけです。でも人も車も騒々しくて、訪ねるのはいいのですが、住むには迷ってしまいます。

 そんな風に、危険に否定的な目を向けていたら、日本では、いえこの地上では、住む街を、どこにも見つけることができないことになりますね。『いつ、空が落ちてくるか知れないので、安心して外出できません!』と、外出恐怖症になった方がいたと聞いたことがあります。『この食べ物に毒が混じっているかも知れない!』と、拒食症の人の話も聞きました。でも、星の動きに導かれて出かけた人の話もありますので、今を精一杯生きて、『動け!』という声を後ろから聞いたら、星の動きに従うことにしましょう。だって私たちは、寄留者であり、旅人であるのですから。この五尺の体を横たえ、納められる場所は、どこにでもあります。大切なのは、思い煩わないで、生きることなのでしょう。ああ何だか、ホッしました。今に感謝する・・・そうですね!でも、ハワイがいいかな。あれっ・・・・・!?

(写真上は、烏帽子岳から望む駒ヶ根市の全貌、中は、岩泉線の景色、下は、父の生まれ育った横須賀の海岸です)

国慶節

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 ここ中国では、春の到来を喜ぶ「春節」、秋の国の誕生を慶ぶ「国慶節」を祝祭の日としています。

 この国と、住んでいます街、この国の人々、この町の人々の「平安」と「繁栄」と「健康」を、今朝、在華七回目の祝祭の日を迎え、心からお祈り申し上げます。

 この国の指導者のみなさん、とくに胡錦濤主席、温家宝総理、次期の重責を担う新指導部のみなさんの「平安」と「健康」とを、心から願ってお祈り申し上げます。さらに、この国で出会った友人のみなさん、学生のみなさん、教師のみなさんの「平安」と「健康」を心から祝福いたします。

 中日の間にある齟齬が正され、千数百年の友好の歴史、ことのほか「四十年の友好の努力」が、しっかりと実るように、心から祈念いたします。

(写真は、延々と続く「万里の長城」です)