日本の〈童話〉にも、「猿カニ合戦」とか「桃太郎の鬼退治」とかがあって、読んでみますと、何か子ども向けではない様に感じていたのです。同じ様に、ドイツにも、「グリム兄弟」の話の中に、子ども向けではない様な話が語り継がれています。"ハーメルンの笛吹き"の物語です。
1284年、ハーメルンの村にはネズミが大繁殖し、人々は困りかねていました。ある日、町に笛を持ち、色とりどりの布で作った衣装を着たが現れて、報酬をみらえるなら、ネズミを退治するともちかけます。ハーメルンの人々は男に報酬を約束したのです。それで男が笛を吹くと、村中のネズミが男のところに集まっってきたではありません。男はそのまま川に歩いてゆき、ネズミを残らず溺死させてしまったのです。ところが、ハーメルンの人々は笛吹き男との約束を守らないで、報酬を拒んでしまいます。
笛吹き男はいったんハーメルンの村から姿を消したのですが、再び現れました。住民が教会に行っている間に、笛吹き男が笛を鳴らしながら通りを歩いていくと、家から子供たちが出てきて、この男のあとをついて行ってしまったのです。その数は130人で、二度とハーメルンの村に戻って来ませんでした。
そんな奇怪な〈集団失踪事件〉の「実話」を題材に、グリム兄弟が書き残したわけです。この話は、誘拐されてしまう様な恐怖心を、子どもたちの心に植え付けてしまうのではないか、親として心配したものです。日本でも、よく〈児童誘拐事件〉が起きていたからです。有名なのは、東京都台東区で、1963年3月に起きた「吉展(よしのぶ)ちゃん誘拐事件」でした。4才の男の子を、金目当てで誘拐され、殺害してしまうと言った残忍な事件でした。事件発生から2年後に、犯人が自供して、事件は解決したのです。
実に悲しい事件でした。それで、私は忘れられませんでした。この犯人が、吉展ちゃんに目をつけたのは、この子が、親戚を訪ねる様にと、〈よそ行きの服〉を着ていたからだったそうです。わが家は、程々の経済状況で、家内は、親戚から回ってきた服や、安売りで買った服に、よくつぎ当てなどして、子どもに着せていましたので、誘拐犯の目につくこともなかったのですが、〈日本版ハーメルンの笛吹き〉に出会わないとも限らず、心配もありました。
でも、それも杞憂(きゆう)で、子育てが終わって、今や、孫の時代が巡ってきています。今、私たちが住んでいます国でも、誘拐事件があるからでしょうか、幼稚園や小学校や中学校の登下校の際は、ご両親やおじいちゃんやおばあちゃんが、しっかり、校門までと、校門から付き添っています。交通事故も起きかねないので、どの国も子育てって大変なことは、古今東西同じです。
子どもたちの安全のために、社会全体が、しっかり、子どもたちを見守る責任がありそうですね。世の中が、愛が冷えて、険悪になって来ているからです。
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