タンポポ

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 家の近くの駐車場の隅に、タンポポが咲いています。たった一輪、目向きもされない雑草ですが、桜や梅に負けずに、春を告げてくれる花の一つです。巴波川の岸辺にポツンと、黄色い姿を見て、懐かしく眺めていました。

 漢字では、「蒲公英Púgōngyīng」と表記しますが、中国伝来の漢字で、難読です。けっこう目立つて、どこでも咲いているのですが、「日陰の花」なのだそうです。そして三日命の短命な花です。一枚一枚の花びらが、一つの花で、花の集合体だと、植物学では教えてくれます。鈴木真砂女が、次の様に詠んでいます。

 たんぽぽの 絮となる頃や 旅を恋ふ

 この「絮」という漢字は、「じょ」とも「わた」とも読むことができます。天津にいた時、外国人アパートから語学学校に行く道に、春先に、「柳絮(りゅうじょう)」が、鞠の様になって風に吹かれて、路上を転がって、旅をしていく様に見えたのでしょうか。そんな初春の光景をな眺めたことがあります。

 咲き終わると、「柳絮」に似て、綿毛になってしまうのを、地から抜き取って、息をフーとかけると飛んでいくのが面白かった遊びを思い出します。その綿毛が地に落ちて、翌年花を咲かせてくれるのです。イヌフグリやレンゲとともに、庶民の花なのでしょう。
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 タンポポの綿毛のようにフワフワと42キロの旅に出る

 この短歌は、マラソンランナーだった高橋尚子が、「シドニー・オリンピック」での自分のマラソン走を「旅」に見立てて詠んだものです。真冬のクラブの練習で、アスファルトの路上走をしていましたが、「フワフワ」と走った高橋尚子に驚かされます。だから金メダルに輝いたのでしょうか。長男と同学年です。

 豪快に花を咲かせて、短い間に花吹雪となって、注目されるソメイヨシノの影で、珍重されない花ですけど、郷愁を誘い、庶民性を讃えた、幼い日を思い起こさせる花です。

 私たち日本人が、「タンポポ」と呼んできたのは、もともとは「鼓草(つずみぐさ)」と言われていたのを、〈タンタン〉、〈ポンポン〉との包みの音を擬音化して、「タンポポ」と呼ぶ様になったそうです。小型の向日葵に、形状も色も似ているのに気づきます。

 誰が始めたのでしょうか、タンポポの茎を煎じて、「コーヒー」の代替物、代用品として飲むのだそうです。まだ一度も飲んだことがありませんが、一度試してみたいものです。茎を折ると、ミルクの様に白い液が出ますが、口にしたことはありませんでした。コーヒーには似つかないのです。

 ゴッホが黄色い花を好んで描いている印象が強いのですが、黄色は目立つ色彩で、多くの人の好まれる様です。ちなみに、タンポポは英語では、” Dandelion(ダンデライオン) “ と言うそうです。葉がギザギザとしていて、ライオンの歯並びに似ているところから、名付けられた様です。
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 恩師が、『野の花の如く生きなむ!』と書き残してくれたのですけど、野草で、有難られないで、しかも短命な花は、「野の花」の典型なのかも知れません。川辺に咲いていたタンポポの花の近くで、同じような雑草のイヌフグリが踏まれることなく咲いていました。

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