足元の火

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 今しきりに思い出している人がいます。兄が大学受験で、在京の文化放送の「大学受験英語講座」を受講していました。J.B.ハリスと言う方が講師で、お父さまがイギリス人でお母さまが日本人でした。その放送の前か後か、放送時間は覚えていませんが、「歌謡浪曲」と言う番組をしていました。

 当時は、まだ浪曲が流行っていて、よくラジオで放送していました。その歌謡浪曲は、三味線だけではなくて、洋楽器の演奏もあったと思うのです。早稲田に学ぶ青成瓢吉が主人公で、尾崎士郎の作、「人生劇場」でした。瓢吉の出身が、愛知県の三州吉良、あの清水次郎長の子分の吉良の仁吉の故郷でした。

 その浪曲と歌謡とが合わさった語りと唸りが、古風な中学生の私の心を揺さぶったのです。それを演じたのが村田英雄でした。両親が浪曲師と囃子手で、幼い日から舞台に立って来たのだそうです。新しい形の浪花節語り、歌手でした。それから、目を見張る様に脚光を浴び、この人は歌謡界で大活躍します。

 ところが晩年に、糖尿病を患ってしまいます。昔の旅回りの演者は、その土地土地のご馳走を振る舞われ、美酒美食の食生活だったのでしょう、合併症に苦しみます。とうとう足を切断するほどになってしまいました。

 去年の年末になって、家内に勧められ、やっと重い腰を上げた私は、市の検診を受けたのです。結果が一月になって送られて来て、〈要精密検査〉で、家内のかかっている獨協医科大学病院で診てもらいました。尿酸が多いとのことで、単なる医者の脅しではなくて、やっと足元に火がついてでしょう、目覚めた感じです。

 薬を飲まないことを、ちょっと誇っていた私は降圧剤を飲む様になり、鼻っ柱を折られてしまい、今は小さくなっています。子どもたちが《注意勧告》、食生活や運動の勧めをしてくれているところです。それで、今の生き方は、〈村田英雄〉の後半生の在り方を反面教師に、一生懸命に散歩に出掛け、甘い物と間食を断って、魚中心の毎日です。

 ちょっと遅きに失した感が強いのですが、やっと《自己管理》に目覚めたのです。もう少し生きて、孫の結婚式に出たり、孫の子を抱いてみたいからです。問題は、胃カメラを飲んだ結果、上部に問題が発見され、組織をつまみ取って検査に回したそうです。その結果が、今日の通院で出たのです。

 ガンの兆候はなく、ピロリ菌があるとの医師の診断でした。除菌をするそうで、服薬を言われて、明日からの開始です。明日は、糖尿病専門の町医者に出かけて、糖尿病予備軍とのことで、胃の検査結果と、そこでした尿と血液の検査の結果を踏まえて、生活指導を受けることになりそうです。家内も子どもたちも、ひと時の安心を得たようです。減量、運動、間食注意、魚中心の食事に努めていく思いでおります。

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