私の愛読書の中に、次の様な《子への訓令》が書かれています。
「わが子よ。あなたの父の命令を守れ。あなたの母の教えを捨てるな。」
私の母は、高等教育を受ける機会がありませんでしたが、「独学の人」で、よく物事を心得ていた女性でした。漢字に興味のあった私は、多くの漢字を母から教えてもらったのです。
ある事業所に勤めていた時、上司の狡さに躓いた私は、母に、『鼻で息をする人間をたよりにするな。そんな者に、何の値うちがあろうか。』と諭されて、人の限界を認め、それを乗り越えて生きて行く様に激励されたことがありました。学校出たての職場でのことで、そこをステップに、若者を教える教師になることができました。
父は、『喧嘩をして勝ってこい!』と、喧嘩奨励をしたのではないのです。『泣いて帰ってくる様な喧嘩をするな!』、『たとえ負けても泣くな!』と言ったのです。そんなことよりも、〈麻薬の怖さ〉を教えてくれたことは、意志の弱い、けっこう短気で、悔しい思いをしてきた自分は、しっかりと釘を刺され、肝に銘じさせられ、〈怖さ〉を叩き込まれたのはよかったのです。
薬物依存症は「孤立の病」なのだそうです。薬に手が伸びてしまう動機について、次の様に言われています。『「自分には居場所がない」、「必要とされていない」と感じる人が仲間や繋がりを求めて、薬物が忍び寄ってくる。手にしてしまうと、今度は人を裏切り、さらに孤立を深めてしまう!』とです。求め、依存に陥ってしまう人は、私たちは、〈快楽の虜〉になっているからだと思ってしまうのですが、〈苦悩〉から逃れたいのであって、結果的に、より深い深刻な〈苦しみ〉に落ちていくのだそうです。
まだ中学生だった私への《両親からの教え》は、一生ものになったわけです。『鉄は熱いうちに打て!』、柔軟な心を宿しているうちの教えや訓練は、一生涯にわたる宝物なのでしょう。人の意志の力には、限界があります。でも、正しさに向かって、意思して生きようとする時、どこからともなく《助け》が来るのです。何度、そんな経験をしたことでしょうか。
〈転寝(うたたね)〉って、きっと麻薬に似ているんだろうと思うのです。眠りに吸い込まれて行く感覚がして、束の間、深みに沈んで行くのが、気持ちいいのです。きっと、それに違いありません。また家内に、転寝を叱られてしまいました。
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