あめ

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     春雨のやまんとしつつ美しく   星野立子

 昔は、「霧雨(きりさめ)」、「涙雨」、「小雨」、「小糠雨(こぬかあめ)」、「慈雨(じう)」、「時雨(しぐれ)」、「驟雨(しゅうう)」、「通り雨」、「夕立」、「氷雨(ひさめ)」とか、美しい日本語で雨を表現していました。「雨」の読み方も幾通りもあって、日本語の面白さではないでしょうか。どうも俳句や短歌を作る心の余裕のある雨が降っていて、情緒があふれていました。ところが、最近では、「豪雨」、「集中豪雨」、「ゲリラ豪雨」、「ゲリラ雷雨」などといった響きの怖ろしい言葉をよく耳にしております。

(絵は、歌川広重作の「名所江戸百景」で、夕立ではないでしょうか)

 米海軍のサミュエル・J・ロックリア司令官が、最近、温暖化による影響が、気候変動を起こし、その脅威は、長期的に見て、おどろくほど激しくなるのではないかと予測しています。『それほど遠くない将来、海面上昇の影響を受ける国々が出てくる可能性はかなり高い!』、『天候のパターンが過去に比べて激しいものになっているのは間違いない。たとえば、西大西洋で発生する巨大な台風の数は、例年17こ程度だが、今年(2013年)は27~28個にもなりそうだ!』と、予測しています。フィリピンの近くで「台風」が発生し、そこからさまざまな方角に進路をとって猛威をふるっています。またビルマの周辺では、「ハリケーン」が発生していますし、最近ではインドネシアや日本で大きな「地震」が起こり、「津波」の規模も甚大になっています。

 「海と波があれどよめき・・・天の万象が揺れ動かされる」といったことが古来言われてきておりますが、雨一つみても、尋常な量ではありません。排水路が容積を超えて、地下鉄の入り口から、雨水が流れこんで、東京でもニューヨークでも、利用者の足を奪うような問題も起きています。これまでは、何かの力によって、制御されていたのではないかと思うのです。このところの、予想外の降雨量をみますと、押しとどめていた手が引っ込められてしまったかのように感じられてならないのです。何だか、人間の心が荒れて、優しさが少なくなり、思ってもみなかった「心の荒廃」」が、自然界の均衡を崩しているのではないかとさえ、思ってしまいます。

 童謡に、北原白秋の作詞、中山晋平の作曲の「あめふり」があります。

    あめあめ ふれふれ かあさんが
    じゃのめで おむかい うれしいな
    ピッチピッチ チャップチャップ
    ランランラン
    かけましょ かばんを かあさんの
    あとから ゆこゆこ かねがなる
    ピッチピッチ チャップチャップ
    ランランラン
    あらあら あのこは ずぶぬれだ
    やなぎの ねかたで ないている
    ピッチピッチ チャップチャップ
    ランランラン
    かあさん ぼくのを かしましょか
    きみきみ このかさ さしたまえ
    ピッチピッチ チャップチャップ
    ランランラン
    ぼくなら いいんだ かあさんの
    おおきな じゃのめに はいってく
    ピッチピッチ チャップチャップ
    ランランラン

 この童謡が発表されたのが、1925年、大正14年の11月だったそうですから、社会がゆったりして、人情の熱い時代だったことになります。優しい男の子の心遣いがなんとも言えませんね。去年の秋だったでしょうか、町こちらの街をブラリと歩いていましたら、「番傘」、つまり、この歌の中に出てくる「蛇の目」が売られていたのを見かけました。竹と紙で作られた雨傘です。子供の頃には、雨降りの日に、この傘をさして小学校に通っていたことを覚えています。もちろん下駄履きでした。その蛇の目に落ちてきた雨も、『ピッチピッチ チャップチャップ!』の優しい雨だった記憶がありますが。