七十年ぶりに

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 『俺は爺さんじゃあない!』と言い張っていたのすが、もう年齢は後期高齢者、市内運行の「ふれあいバス」は半額などの恩典に預かる身となって、もう任せっきりです。

 この街に、おもに老齢者のために4ヶ所、入浴施設があります。近所の方に教えていただいて、女子校のそばに一つあり、23回行きました。ちょっと遠くですが、大きな電気工場の近くに一ヶ所、そして今日は、市の健康福祉センター(保健所)の近くにある施設に行ってきたのです。

 56人入っていたでしょうか。大きな湯船で、けっこうノンビリと入ることができ、身も気持ちもユッタリさせていただいたのです。これで、「100円」で、お湯もキレイで、ニギヤカではないのです。こんなことのできる今に、感謝なのです。

 ただ日帰り温泉のように、サウナも、@ジャグジーも、炭酸泉も、ぬる湯もありませんし、露天で樹木や空や鳥も見たりできませんが、目的は十二分に果たせるのです。

 実は、その湯に、右手の不自由な方が入っておいででした。右手と前腕がなかったのです。湯船に私が入っていて、その方が、左手で、腿の上に広げたタオルに、自前の石鹸をつけていて、体を洗おうとしていたのです。私は、とっさにお湯から出て、この方に、『お背中を流しましょう!』と声をかけてしまったのです。意外に思う顔を向けたのですが、ちょっと強引でしたが、右腿の上に石鹸のついたタオルを取って、背後に回ったのです。『すいません!』と言われて、左手では手の届かない肩、首筋、背中、腰と柔らかくタオルを動かして洗って差し上げたのです。

 やっぱり嬉しそうに、ニコニコとされておいででした。私は、余計なことを言わないで、自分の髭剃り、洗髪、体の洗いを、この方の隣でしたのです。この方は体を洗い終わって、湯船に浸かられて、しばらくして出られて、絞ったタオルで体を拭いて、『すみません!』と会釈されて、浴室から出て行かれました。

 これは自慢話ではありませんで、ただのオッチョコチョイなだけなのです。断裂した右手の鍵盤の再生手術をして、プロテクターで固定されて、何もできなかったことがあって、その時のことを思い出して、それでさせていただいたのです。『お互い様!』と、コソッと言ったでしょうか。とても嬉しそうなお顔をされておいででした。

 そう言えば、銭湯に連れて行かれ、『準、背中を流してくれ!』と言われて、父の背中を何度か流させられてから、七十年ぶりのことだったでしょうか。ちょっと、お風呂に入ったこともあって、いい気持ちで、自転車にまたがって帰って来たのです。途中、隣人のご婦人の展覧会が、市の文化ホールであって、それを観たのです。私が家に出る時、このご婦人が、家内を誘っていたので、会えそうに思っていましたら、会場で家内とご婦人にお会いできたのです。

 そう、この数日の寒さとは打って変わって日差しの温かい一日でした。それでいい気持ちだったのです。今日も、また寒暖の差の大きさを感じた一日でした。

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