待ちつつ急ぎつつ

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 1842年、ドイツのバイエルン州の田舎の村、メットリンゲンに、一人の若い女性のゴッットリービンが、精神錯乱で苦しんでいました。それ以前に、お兄さんも同じ様な問題を持っていたのです。しばらくすると、彼らの住む家から、『ゴーン、ゴーン!』と言う異様な音が村中に響き続ける様になります。この事態に直面した村長や教会の牧師や長老たちは、話し合いをします。そして、この「悪霊」の仕業に挑戦していく覚悟を決めます。

 その戦いはしばらく続きましたが、ある日、『イエスは勝利者だ!』と告白して、その若い女性は、束縛から解放されてしまいます。神がお造りになった人が、闇の力の支配に束縛され続けることを許すまいとする決心で、一人の若い女性の尊厳の回復のために、果敢に信仰を持って挑戦し、祈り、賛美した結果の「勝利」でした。その戦いを続けたのが、ブルームハルトでした。

 このゴットリーヴィンの解放は、心霊上の救いだけではなく、全人格的な全人間的救いであり、力をもって働きかける神の働きの現れでした。精神医学や心理的カウンセリングでは解決し得ない、心の闇の問題は、創造主から解き放たれる「神の力」による以外になかったのです。罪と死に勝利した《キリストの御名による力強い働き》によったのです。

 そう言った霊的な「戦い」に立ち上がった父と、家で牧師夫妻を助ける様になった、闇の力に「勝利」したゴットリービンのいる家庭で、一人の少年が成長していき、父の後の教会の奉仕を受け継ぐのです。クリストフ・ブルームハルトです。パートボルの教会に移った彼の奉仕、牧会の中で、多くの人たちの病が癒やされ、霊的束縛からも、多くの人が解放されていくのです。

 そればかりではなく、広くヨーロッパ中から多くの人たちが、ブルームハルトを慕い、信頼して集まって来たそうです。後に政治の世界にも進出しますが、教会指導の優れた器でありした。有名なバルトも、若い日に、このブルームハルトの感化を受けています。

 この教会の空き地には、数限りないほどの医療補助器、松葉杖などが山の様にうず高く積まれていたと記録されています。さながら新約聖書の時代の様な、目覚ましい奇跡が現されたのです。バルト神学の研究者の井上良雄の著された「神の国の証人 ブルームハルト父子 待ちつつ急ぎつつ」に、そのことが記されてあります。

 この本を読んで、感銘を受けた四十ほどの私は、著者の井上師に、手紙を書きました。そうしましたら、丁寧なご返事と、ドイツ語のシュバーヴェン方言で書かれた、ブルームハルトの著作の原文のコピーが送られて来たのです。『簡単なドイツ語方言ですから、学んでみてください!』と言われてですが、ドイツ語を学んだことのない私は慌ててしまいました。それで、ある方に翻訳を依頼したのですが、その後その方もコピーも行方不明になってしまったのです。本当に申し訳ないまま、井上師は帰天されてしまいました。

 この子ブルームハルトには、面白い逸話が残っているのです。彼の家の玄関には、いつも馬に繋がれた馬車が置いてあったのだそうです。ベンツの自家用車などない時代でしたから、遠出には馬車だったのでしょう。なぜかと言うと、『イエスさまが再臨された!』と言う知らせを聞いたら、すぐに馬に鞭打って駆けつけるためだったそうです。

 「再臨待望」の強い想いを表すクリストフ・ブルームハルトの玄関の馬車に倣って、私はこのアパートの自転車置き場に、自転車を置いてあります。もちろん、買い物用の自転車で駆けつけられることなどできませんが、同じ思いで馬車の代わりに自転車を置いて、主の再臨を待ち望んでいたいからであります。

(シュヴァーベン方言の乗馬禁止の表示です)

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