忽ちに月をほろぼす春の雷 草城
昨夕、にわかに空がかき曇ったかと思いますと、雷光がきらめき、雷鳴が轟き、豪雨が激しく地面を叩き始めました。それは凄まじいものでした。腸(はらわた)に響き渡るような大音響に、まるで体が持ち上げられそうな感じがしました。生まれ育った村で聞いた雷鳴は、まるで赤子の泣き声ように感じられ、大陸の「雷」は「つんざく」ような勇猛、勇壮、雄渾でした。西の空から東の空に響き渡るのです。
雷は、幾つもの太鼓を背負っている姿で描かれてきたのですが、そんな小さな太鼓で、あれほどの音響を奏でることはできません。空全体が大鼓(おおづつみ)のように想像されるのですが。子どものころに、よく『雷が鳴ったら、ヘソを隠せ!』と言われました。雷が「臍」の蒐集家で、子共のヘソを集めているから、気をつけろというのは、脅かしで、低気圧の影響で雨が降り、気温が下がるので、お腹を出していると風邪をひくから、『お腹を温めるんだよ!』という意味なのでしょうか。
この雷鳴が、私は大好きなのです。昨夕は、雷鳴を聞くやいなや、ベランダに出て、しばらく雨しぶきにあたりながら、その音と光と、車軸を流すような雨を見ていました。もちろん、アスファルトの道路ですから、車軸はありませんでした。そこに叩きつける雨足は、跳ね上げりが凄まじかったのです。あれほどの雨だったのに、一夜明けた今朝は、外のバス通りを見ますともう乾いてしまっています。
(絵は、鈴木春信の「夕立」です)