驚き

 

 今朝は、近くに郵便局が無いので、F大学の正門の道路を隔てた反対側にある局に行くことにしました。近くのバス停から、大学方面行のバスに乗り込みました。空いていましたので、座席に座って、耳をすませておりましたら、ナナナなんと「軍艦マーチ」が聞こえてきたではありませんか。中国の公共バスの車内に流れるラジオかテレビの音声が、聞く耳を疑うような曲を奏でていたのです。最近、バスの車内では、FMラジオに替わって、移動テレビが放映されているのですが、『エッ!』と驚いた私は、テレビの画面を見たのですが、キャスターが何かをしゃべっているのが見えたのですが、画像と音声が一致していないのです。そうしますと、運転手が、旧来のラジオのチャンネルを回していたのかも知れません。学校に行ってる頃に、時間を持て余して、よく入り浸ったパチンコ屋で流れて聞き慣れていた、紛れもない、あの「軍艦マーチ」なのです。

 その曲が一段落したら、こちらの俳優か声優の日本語が聞こえてきました。聞き取れなかったのですが、今度は、みなさん、驚かないでください!「君が代」が聞こえてきたではありませんか。日本を「小日本」、日本人を「鬼子」という国の中で、日本の国歌が流れていることに、唖然としたのです。今日日、日本の公立中学や高校の卒業式などで、ある教師は国歌斉唱を拒否してるという事態を聞いていますから、ラジオであろうとテレビであろうと、かつての敵国の軍国主義を高揚したと思われている曲と、日の丸を彷彿とさせる日本国歌が流れることなど、『ありえない!』わけです。すでに戦争が終わって66年を迎えますので、年配者から聞いてはおいででしょうけど、軍靴で蹂躙されたという忌まわしい記憶が、この国の中で、じょじょに薄らいできてるのでしょうか。ほんとうに驚いてしまったわけです。

 聞きながら、車内を見回しましたが、どこかの景気のいい中国民謡か、物悲しい失恋の歌にしか聞こえなかったのではないかと感じてしまいました。「北国の春」とか「四季の歌」とか「昴」などは、翻訳されて歌われていますから、ほとんど抵抗を覚えないに違いありません。私の住んでいる5階の部屋から、南に位置する大きなアパートの下に、集会場があるのですが、そこで老人会がカラオケを歌っています。その1つの定番は、「北国の春」ですから、ここ華南の街では、敵愾心など、まったく感じないのは、ある意味では当然なのかも知れません。しかし、この二曲には、『いいんですか?!』と、あたりを気兼ねした私だったのです。

 今日、私は、中国と日本の関係を、『もう心配しなくていいのではないか!』と思ってしまうほどでいた。こちらで生活をされていらっしゃる一般のみなさんが、ちょっとおかしな私の中国語を聞いて、『あんた、何人?』と聞いてこられるので、『日本人!』と答えると、躊躇なくニッコリと笑いを返してくれるのです。午前中の驚きの興奮がさめないまま、午後は、「マッサージ(按摩)」に連れていってもらいました。寝違いなのでしょうか、この2週間ほど肩が張って、首がまわらない私を心配して、若い友人が連れていってくれたのです。鍼とマッサージと温湿布などをしてくださった方が、ナナなんと、招かれて8年間、中国医学を日本で教えておられたお医者さんだったのです。流暢な日本語を話されるではありませんか。更にこの方は、家内と時々交わりをしておられる日本人のご婦人の義理のお兄さんだということも分かったのです。彼女は、わが家にも2、3度おいでになったことがありました。こういった奇遇に、『世界は狭いものですね!』とお医者さんが中国語で話されておられたのです。

 私の愛読書に、「あなたの友、あなたの父の友を捨てるな。あなたが災難に会うとき、兄弟の家に行くな。近くにいる隣人は、遠くにいる兄弟にまさる。とあります。二人の兄と一人の弟がいまして、家内が羨むほどに仲がいい兄弟なのです。しかし、異国で出会った友人や隣人たちもまた、私の人生の「宝」に違いありません。欲しくて出会うとは限らない友が、今や何人も与えられているということは、何にも勝る「富」であります。この方々に、心から感謝して!

(写真は、中国の市内を走る公共バスの車内風景です)