あなたも高価で尊い

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 7月15日、NHK第一ラジオ夕方6時台、“ ニュースアップ"で、「在宅勤務 座りすぎに注意」という主題で、中川 恵一さん(東京大学医学部附属病院放射線科 准教授)が、『今では、〈貧乏ゆすり〉とは言わないんです!』と言っていました。では、なんと言うかと言いますと、「健康ゆすり」なのだそうです。

 もう一つ、『座ってばかりいないで、三十分に一度、立ち上がって、歩き回ったほうがよいのです!』とも言っていました。小学校の通信簿に、行動の記録欄がありましたが、みなさんは、どんなことを、担任の先生に、書き込まれたか覚えておいででしょうか。

 病欠児童の私は、たまに学校に行けて、教室にいられるのが嬉しくて仕方がなかったのです。それででしょうか、落ち着いて座っていませんでした。先生がする「机間巡視」を、生徒の私も席から立って、級友たちの机の間を歩き回っていたのです。たまに学校に来ては、歩き回る様子を見て、級友たちは呆れ果てて、私を見ていたのでしょうか。当時は、そんなこと思ってもみなかったことですが。

 どの学年の担任も、決まって一様に、『少しも落ち着いていない(今流ですと〈多動性障害児〉でしょうか)!』、これが行動の記録だったのです。貧乏ゆすりをする間もなく、立ち上がって歩き回っては叱られ、教室の後ろや廊下、しまいには、校長室に立たされたのです。

 二十一世紀、コロナ旋風で、行動に制限がかかった時代の直中で、私が小学生だったら、〈エコノミー症候群〉にならないための《三十分に一度の立ち歩きの勧め》で、『立たされたり、叱られたりしないですんだのに!』と思ってしまうのです。どこか外国の大学の研究室が調べたのだそうですが、世界中、日常生活の中で、座っている時間が一番長いのが、日本人なのだそうです。

 時代や社会環境の変化で、昔は悪い習慣だったことが、《よい習慣》に変化してきているのは、過去の汚点に苛まれている私の様な者には、喜ばしい使信なのです。狭い飛行機のエコノミー席に座って、大陸との間を、家内と一緒に何度往復したでしょうか。何時も、あの席で、貧乏、いえ「健康ゆすり」をしたり、昔取った杵柄で、トイレに行くふりをして、通路巡視をするのを常にしていましたが、それが良いことに、レッテルが張り替えられたのは感謝な時代の到来です。

 でも、畳に敷いた布団や卓袱台や炬燵などから立ち上がる動作が、日本人の足腰の強靭さを育んでいると言われてきています。生活の知恵でしょうか、社会的習慣がもたらせた素晴らしい伝統なのでしょう。自虐的傾向の強い私ですが、こんな自分を捨てないで、厚かましく生きてこれたのは、ありのままの私を愛し、「あなたも(は)高価で尊い」と言ってくださる方とお会いしたからです。

(〈フリー素材〉野に咲くスズランです)

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