『・・・なんで大政、国を売る』と言う歌の文句を、上の兄が鼻歌で歌っていました。大学に通い始めて、覚えてきた流行歌の一節でした。それを聞いて、『面白いなあ!』と思ったのです。我が家の情報源が、父からだけでなく、兄のルートも加わったからでした。その新しい世界からの情報に、中学生の私は興味津々だったわけです。この大政は、清水の次郎長の子分で、侍から博徒に転じた変わり種だったのだそうです。侍が就活し、いえ転職させるような男気を、次郎長が持っていたからでしょうか。
国道53号線を南下すると、清水市興津で東海道、国道一号線につながるのです。山間部から平地に下ってくると、眺望が開け、間もなく、太平洋の波しぶきが見えてきます。大海原を見、潮風をかぐだけで、心が広げられると、この歌が思い出されて仕方がなかったのです。 『国を売る』、『大政は、どうして故郷や家を捨てたのだろうか?』と疑問に思ったのです。きっと武士を拘束する決まりや、面倒なしがらみに疲れたのでしょうか。深い内面の葛藤を経て、決断をしたのでしょう。浪花節の演目ですから、史実はわかりませんが、いつの世も、どこの街でも、同じ問題を抱えながら、人は生きているのでしょう。
「売国奴」という言葉があります。まさに<国を売る輩(やから)>のことです。 どこにも「秘密」にしていることが大なり小なりあります。国や自治体にも会社や事業所にも、そう、どこの家庭にだって一つや二つの「秘匿事項」があるものです。兄弟喧嘩をして殴られたって、『決して口外してはいけない!』、そう言った決まりが守られています。それがルールなのです。
<機密漏洩(ろうえい)>が、企業などで日常茶飯事に行われているのだそうです。愛社とか愛国と言った意識よりも、より良い収入に誘惑されて、秘密を持ち出すケースが後を絶たないようです。その企業秘密のコピー資料を餌に、就活をしている輩がいるのです。買い手も売り手もいて、成り立っている話です。私の人生訓ノートに、「あなたは隣人と争っても、他人の秘密を漏らしてはならない。」とあります。これが人の道、守るべきルールです。そう言った意識が希薄な時代になって、人が我儘になっているのでしょうか。寂しい時代が到来してるということでしょうか。
自分が「デベソ」であることを知られたくなかったのに、その秘密が漏れていたのです。銭湯に行っていたから当然ですが、悔しかった!でも中年太りしてからは、脂肪腹の中に引っ込んで、跡形がなくなってしまいました。『あの秘密は何だったのだろう?』と、今思い返しているところです。 思春期とは、変なことで悩むものなのですね。大政も私も、今日日の若者だって、事を秘めて、同じように悩んでいるのでしょうか。
(写真は、富士を遠望する、今の「清水港」です)