回家

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 小学校の音楽の授業で習った「唱歌」の中で、「故郷(ふるさと)」ほど、日本人の心にスッポリとはまり込んだ歌はないのではないでしょうか。1914年(大正3年)に、小学校6年生の「尋常小学唱歌」出発表されています。作詞は、東京音楽学校(現在の芸大)の教授で、「国文学者」の高野辰之、作曲は、同じく東京音楽学校の「声楽」の教授の岡野貞一です。

1,兎追いし彼の山
小鮒釣りし彼の川
夢は今も巡りて
忘れ難き故郷

2.如何にいます父母
恙無しや友がき
雨に風につけても
思い出づる故郷

3.志を果たして
いつの日にか帰らん
山は青き故郷
水は清き故郷

 この歌詞の意味が、ウイキペディアに、次のようにありました。
1.兎を追ったあの山や小鮒を釣ったあの川よ、今なお心巡る思い出深き故郷よ。   
2.父や母はどうしておいでだろうか、友は平穏に暮らしているだろうか。風雨(艱難辛苦の比喩とも)の度に思い出す故郷よ。
3.夢を実現したら、いつの日にか帰ろう、山青く水清らかな故郷へ。

 阿倍仲麻呂が、唐の都・長安で詠んだ、

 天の原  ふりさけみれば  春日なる  三笠の山に  いでし月かも

 これは、海を隔てた故郷を、はるかに思って歌った歌でありますが、「こころの歌」といわれる「故郷は」、高野辰之が、自分の故郷である長野県下水内郡豊田村(現・中野市)を思念しながら作詞をしたようです。志を果たした後に、高野や岡野が帰って行こうとした、《山青き、水清き故郷》は、信州や鳥取の故郷だけのことではなく、「天上の故郷」であったのかも知れません。望郷の念にかられて、何度となくおセンチになって、この歌を歌ったことでしょうか。それは私だけのことではなく、多くの在外邦人の経験かも知れません。兄や弟たちと魚採りをした山間いの流れの水は澄んでいるのでしょうか。また、兄にアケビをもいでもらった山道には、まだ雑木が茂っているのでしょうか。おぼろげに記憶が蘇って来る、「回家(huijia、帰国)」を十日ほどにした朝であります。

(口絵は、谷内六郎が描いたCD「故郷」です)