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〈火中の栗を拾う〉、語源由来辞典によりますと、「17世紀のフランスの詩人ラ・フォンテーヌが、イソップ物語を基にした寓話に由来する。その寓話とは、猿におだてられた猫が、囲炉裏の中の栗を拾って大やけどし、猿がその栗を食べてしまったという話である。 」とあります。狡猾な猿の術中に、猫が落ちてしまうのですが、この猿でさえも、たまには木から落ちことがあるのです。ところが、猫だって、知恵がないわけではありません。〈猫が熾(おき)をいらうよう〉と言います。猫は炭火に手を出しては、さっと引っ込めるように、ちょっかいを出すのです(「熾」は炭火、「いらう」はいじる、という意味です)から、猿に唆(そそのか)されても、火の中の栗を、「いらう」に違いありません。フォンテーヌが言うように、やすやすと手を突っ込むことは考えられませんが。もちろん、自然観察をして作りだされた寓話ではないのですから、そのような習性にこだわることはないのかも知れません。
日本は、これからどうなっていくのでしょうか。国旗を掲げることも、国家を歌うこともできないような、このような国民が世界にあるでしょうか。星条旗を掲げたアメリカの黒船が来航したのは、日本を植民地化しようとしてでした。星条旗の星を機体につけた爆撃機が、広島や長崎や主要都市を爆撃して、多くのいのちを奪いました。ユニオンジャックの旗を掲げて、イギリスは、代価の代わりにアヘンを中国に持ち込みました。どの国旗にも忌まわしい過去の出来事を裏面に隠し持っています。それなのにアメリカ人もイギリス人も、自分が生まれ育った国の旗として、自らの国の旗を誇り高く掲げて、敬礼でさえもしています。どうして日本人は、してはいけないのでしょうか。どうしてある人たちは、罪悪感を覚えて、やましさだけを感じてしまうのでしょうか。自分の国を愛せないで、隣国への愛も互いの平和もありえません。
山梨県の大和村に、裂石山雲峰寺があります。ここに皇室から甲斐武田氏に与えられた日本最古の「日章旗」が残されているのです。この土地の歴史に詳しい方とキノコ採りに山に入ったときに、案内されて見ることができました。それを見たとき、日中戦争や太平洋戦争の時に用いられた軍用旗のことを思い浮かべることはありませんでした。その旗に、日本の歴史の流れを感じて、感銘を受けたのを覚えております。「日の丸」を軍用旗としてだけ思い描くことを、だれが教えたのでしょうか。私は誇りを持って、私の生まれ育った国の「旗印」としてだけ意識しております。
国を愛する宰相、子や孫の世代に素晴らしい国を継承させられる首長、夢を次の世代に繋げられる頭領、四海の隣国と正しい関係を築き程々の距離をおいて国交することができる首相が、選ばれて就任されることを切に願っております。時期を考えますと、東北大震災で被災された地域の復興、その影響で冷え込み落ち込んだ経済産業界の再生、生きる意欲を失ったかに見える国民の心の高揚など、大変な時局での舵取りをしなければなりません。誰もが臆して手を出さない、火中の栗を拾う様な大変な仕事を、真正面から立ち向かうことのできる知恵を与えられて、対処される宰相の出現を、心から願っております。救国の大事業は、売名ではできない国家的な仕事なのですから。
デンマークの歴史の中に一人の「人」がいました。敗戦と困窮と荒漠とした原野、そして意気消沈した国民の前に、立ち上がったのがダルガス(Enrico Mylius Dalgas、1828~1894) でした。多くの人が、「今やデンマークにとって悪しき日なり」と言う中で、彼は、「まことにしかり」と、国家の窮状に同意したのです。「しかしながら、われらは外に失いしところのものを内において取り返すを得べし、君らと余との生存中にわれらはユトランドの曠野を化して薔薇の花咲くところとなすを得べし」と、遥かに将来の可能性を信じて告白し、立ち、国民の先頭にたったのです。彼が言ったように、デンマークのユトランドの痩せこけ、アイスランドの土地は、肥沃の大地に変わって、美しい薔薇の花を咲かせる土地に改良されたのです。
私たちの愛する国は、地震と津波と原発事故の放射線の影響下で、人も家畜も土地も作物も海も汚染され、壊れ崩れました。「内に失いしところのもの」は甚大です。そして、残念なことに諸外国からの評価も落してしまいました。しかし、再び美しい花を、人の心と東北の地に咲かせることを信じて立つ、「人」を、この国は欲しているのです。その指導力のもと、勤勉で忍耐強い私たち日本人は、国土の再生、産業の隆盛、消沈した魂に活力を得ることができるに違いありません。今日のアジアの裕福な商都シンガポールを、ここまで建て上げたのは、広東省の貧農の子孫・客家の李光耀 (リ・クワンユー)でした。
多くのものを津浪にさらわれ、地震で砕け落とされましたが、必ず「失いしところのもの」を取り返すことができます。誇り高き祖国日本の再建を果たすことができますから。大丈夫、日本!
(写真上は、デンマークの「地図」、下は、「農村風景」です)