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平成20年の「国語に関する世論調査(文化庁が毎年実施)」の調査項目の中に、〈日本語を大切にしているか〉があって、
大切にしていると思う 38.1%
考えてみれば大切にしていると思う 38.6%
合計 76.7%
という結果がでています。今回の調査結果を、前回(平成13年実施)に比べると、とくに若い人たちの〈日本語を大切にしている〉とのポイントが増加しています。総じて40歳代~70歳代は高いのですが、とくに若年層には、日本語を支持する傾向にあることが分かります。もう一つ、〈「美しい日本語」というものがあると思うか〉については、
あると思う 87.7%
ないと思う 2.5%
と、圧倒的に、『日本語は美しい言葉です!』との答えが多かったのです。これも、前回より増加傾向にありました。では、〈「美くしい日本語」とはどんな言葉か〉に上げられた言葉を七つ列挙してみます。
1.思いやりのある言葉
2.挨拶の言葉
3.控えめで謙遜な言葉
4.素朴ながら話し手の人柄がにじみ出た言葉
5.短歌・俳句などの言葉
6.故郷の言葉
7.アナウンサーや俳優などの語り方
前回と比較して、増加傾向にあるのが、〈控えめで謙遜な言葉〉や〈故郷の言葉〉が上げられています。逆に減少傾向にあるのは、〈アナウンサーや俳優などの語り方〉でした。こういった調査からしますと、日本語に対する気持ちは、高まりつつあると言えるのではないでしょうか。
これまで、『日本の国語を、外国語に替えたほうがよろしい!』と主張した人が何人かいました。明治18年に初代・文部大臣になった森有礼は、〈英語〉の国語化を提唱し、エール大学の教授のホイットニーに手紙を書き送って、相談を持ちかけています。やはり「欧化主義」の流れの中で、そう考えたのですが、薩摩藩士だった彼の背景からしますと、随分と急進的なものの考え方をしたことになります。実現はされませんでしたが、国粋的な人たちからは疎んじられたのでしょうか、43歳で暗殺されてしまいます。もう一人、志賀直哉(「小僧の神様」の著者で、実に美しい日本語を使った作家で〈文章の神様〉との定評があります)がいます。森有礼は〈英語〉、志賀直哉は〈フランス語〉の国語化を提唱したのです。『お嬢さん!』と呼びかけるのを、『マドモアゼル!』と呼ぶことになります。戦後間もなく、そう主張するのですが、彼自身はフランス語を、まったく話すことができなかったと言われています。
さて、名宰相と呼ばれるチャーチルは、母国語の大切さを強く意識し、それを実行しました。新田次郎(「劔岳・点と記」の著者)を父、藤原てい(「流れる星は生きている 」の著者)を母とした彼らの次男で、数学者の藤原正彦(「国家の品格」の著者)もまた、『小学校における教科間の重要度は、一に国語、二に国語、三四がなくて五に算数。あとは十以下 !』というほどの国語教育の重要性を主張し続けています。彼は、「祖国とは国語」という本の中で、『「国語教育絶対論」国語こそすべての知的活動の基礎だ!』と言っております。理科系の学者で、アメリカに留学した経歴もある藤原正彦が、こういった主張をすることは注目に価するのではないでしょうか。
フランスの初等教育では、ヴィクトル・ユゴー(1802年‐1885年、「レ・ミゼラブル」で有名な小説家)などの〈詩文〉を、暗記させているのです。フランス語の韻律の美しさを体得させて、自然に身につくような努力を徹底していることになります。日本語も、美しい言語だと思います。以前、韓国に参りましたときに、お宅に招いてくださった夫人が、『韓国語は演説などのスピーチに向いた言葉ですが、日本語は詩的な表現ができる素敵な言葉ですね!』と言っておられました。
一昨日、日本語科を卒業された教え子からメールがありました。『職場で日本語が上手に話せるようになる秘訣はなんですか?』と聞いてきましたので、『日本語を声に出して読み、それを反復したらいいと思います!』とお答えしました。そうですね、万国共通、万国語共通、〈ことばを声に出すこと〉こそが、言語習得の秘訣に違いありません。
(写真上は、「日本の美・庭園」、下は、「ヴィクトール・ユゴー」です)