久しぶりな事ごと

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 先日の外出の時に、三、四年ぶりになるでしょうか、「革靴」を履いてみたのです。普段、スニーカーがほとんどなのに、何とはなしに履いてみましたら、足元に重みを感じ、確かな靴音が聞こえ、キリリとした感じがしてきました。丸首のT shirt windbreaker でしたので、襟を正したくなるほどでしたが、けっきょく背筋だけを伸ばしてみたのです。

 父が黒革の靴を履いて、コツコツと音を立てて、家を出て出勤していく時の靴音が好きで、いつか履いてみたいと思っていたのです。学校を出て、黒い革靴を履くようになったら、やっぱり社会人の自覚が出てきたように感じていました。

 もう、Yshirtnecktieで、背広を着るようなことも、全くなくなってしまいました。華南の街で、若い二人の結婚式の司式の時には、一着だけ持って行った背広を着ましたが、あの時以来、帰国してから、ある教会にお招きいただき、着用して、それからは着ることがなくなってしまっています。それでも、一着だけ、収納扉の中に残してあり、もう締めることもないネクタイなんかは二十本もあるのです。でも白いY shirt も半袖しかないのは、まさかのときの用意不足でしょうか。

 また、説教に招かれることもなくなり、冠婚葬祭の機会も少なくなり、何だかナイナイづくしの今です。が、思い出は溢れるほどにあります。5年前に住み始めた街は、住み心地も、空気も、食べ物も、人も好くて、気に入っているのです。一昨日は、なぜか、私の故郷の街の工場で作られた、アップルパイとレーズンパンとヨーグルトをいただいて、故郷の味にひたりました。

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 すっかり秋風が吹き、味の味覚を味わえております。あの生まれ故郷特産で、長い栽培の歴史のある品種の「葡萄」も、もう出回っている頃でしょうか。それは、全国区の葡萄ではないので、食べる機会は、ほとんどないままです。そう言えば、それぞれの地の特産品には、そこで育った人には、格別な思い入れがあるのでしょう。

 そんな葡萄が食べたくなるのも、この季節に、食べたことを思い出すからでしょうか。毎年、葡萄好きだった父に、送られて来ていたのです。夏にはプラムが、暮れには母の故郷から、蕎麦と野焼き蒲鉾が送られて来て、二親の家から独立していった私たち子どもたちにも、毎年送っていただいていました。

故郷を、味覚で感じては思い出して、父や母を思い出し、兄たちや弟のことが気になる、もうたけなわの晩秋なのですが、やけに陽の光が強いのが気になります。

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