もう何年経つでしょうか、隣町に事務所を借りていた頃に、よくやって来たおばあちゃんがいました。農家の方で、いつも和服をめしておいでした。懇意にして下さって、畑で採れたものなんかをよく持って来てくれました。ある時、「桑の実」を焼酎に漬けた果実酒をもって来てくれたのです。熟した桑の実が赤黒くお酒に溶け込んで、甘くて、『疲労回復にいいから!』と言って頂いたのです。
あれ以来飲んだことがあませんが、美味しく頂いたのだけはよく覚えています。子どもの頃、養蚕がまだ行われていたのですが、高台の畑には、桑が一面に植えられていました。あの桑の枝を、肥後刀で切り取って、〈チャンバラごっこ〉の刀を作るのです。皮がするりと剥けるので、刀で傷つけて、握り手だけに皮を残すのです。
それを腰のベルトにさして、侍になった気持ちで、斬り合いをするのです。その桑の木には〈ドドメ/私が育った東京のたま地区ではそう呼んでいました〉がなるのです。今の様に果物の種類や数に多くない時代、甘くて美味しい、この木の実は最高のオヤツでした。作詞が三木露風、作曲が山田耕筰の「赤とんぼ」の中で歌われています。
夕焼小焼の 赤とんぼ
負われて見たのは いつの日か
山の畑の 桑の実を
小籠(こかご)に摘んだは まぼろしか
十五で姐や(ねえや)は 嫁に行き
お里のたよりも 絶えはてた
夕焼小焼の 赤とんぼ
とまっているよ 竿の先
「山の畑の桑の実を小籠に摘んだ・・・」日々が、私にもあります。実際は、手から口へと直行型の摘み取りでしたが。今では〈幻の実〉になっていますから、現代っ子たちの知らない味覚なのでしょうか。長野県では、「桑の実」の農園があって、実際にこの時期には、収穫体験ができる様です。それでも、もう一度食べてみたいものです。
ジャムにしたり、飲用ににしたものがあるそうですが、やはり枝の付け根あたりにドドメ色になった実を、手でもいで頬張ってみる、あの野性味が懐かしく思い出されます。まさに〈ふるさとの味〉えなのです。中国の華南の街で、小さな平ケースに入れて売られていましたが、買ってみて食べましたが、ちょっと幼い日の味とは違っていた様でした。
([HP里山を歩こう]から配信下さった桑の実です)
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