『話せばわかる!』

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新年早々から、こんなことをブログに書くのを躊躇(ためら)ったのですが、意を決して書くことにしましょう。中学生の時に、「真空地帯」という映画を観ました。木村功という俳優が好きになったてしまった作品で、1952年に、野間宏が、日本の陸軍の「内務班(軍隊の営内居住者のうち軍曹以下の下士官及び兵を以て組織された居住単位である )」の実態を書いた小説の映画化でした。

海軍の家系の父から生まれた男の子として、平和な時代であったのですが、少々「軍国少年」のような考えをもっていたのが、中学時代の自分だったと思います。海軍兵学校の制服に似ていて、釦(ぼたん)でないホックで前を留める制服を着用していたのも、なんとなく気分を高揚させていたのかも知れません。バスケットボール部に所属していました。高校生、卒業していった大学生や社会人の先輩たちが、しょっちゅう出入りしていた運動部でしたから、そこで「男学」を学ばされたのです。産毛の中学1年生が、この世の荒波に揉まれていったわけです。そんな時期だったでしょうか、この映画を見て衝撃を受けたのです。

軍隊とは、「武士集団」で、男の鑑のような人たちの世界で、勇気とか果敢さとか、「滅私奉公」の心意気で、凛々しい男の世界だと思っていたのです。ところが、映画の中の軍隊は、古参兵が新兵を訓練するといって、暴力を振るうのです。誰かが過ちを犯すと、全体責任で、一列に並ばされてビンタを張られるわけです。「伝令」とか、「鶯の谷渡り」とか言われた体罰をさせられ、それを眺めて卑しく笑う古参兵の姿が描かれていたと思います。エンピツを指に挟んで、それで指をギュッと握られるような、拷問も行われていたようです。『エッ、栄えある日本の軍隊ってこんなだったのか。嘘だろう。これって脚色され誇張された、誰かの創作ではないのか!』と思わされて、それでも、『軍隊の実態は、こんなだったんだろうか?』と思ったりしていたのです。

この映画で木村功が演じたのが、木谷一等兵でした。軍隊生活4年の古参兵で、陸軍刑務所から出獄してきて、その内務班にいたのです。彼が、古参兵の特権で、ビンタを張る場面がありました。「皇軍(天皇の軍隊と言われていました)」の輝きなど全くない陰湿な世界に、「軍国少年」の夢や憧れは、無残にも砕け散ってしまったのです。そういった世界の影響でしょうか、運動部が強くなるための精神性を高めるために、この軍隊方式を受け継いでいたのです。横並びにされて、ビンタを張られたり、殴られたことは何度もありました。本当に、男は、こういった世界で生きることによって、「男になる」のでしょうか。それで、下級生をビンタし、ビンタされた下級生がが、またビンタを張るといった悪弊が受け継がれてきていたのです。

今朝のニュースで、「体罰を受けたバスケットボール部の主将が自殺」と言った記事がありました。顧問の教師から体罰を受けたのを苦にしての自殺だったようです。二十一世紀になっても、こういった「蛮風」が残っているのですね。そこまで追い込む体罰が、運動部を強くするのでしょうか。自分を殴った上級生や先輩の顔が浮かんできます。自分が殴った下級生の顔も思い出してしまいます。スポーツの世界が、健全な精神を涵養することを忘れて、「勝つこと」だけが目的になってしまうと、おかしなことが起こるのでしょうか。やはり、人間を狂わせてしまう「暴力」は、どんな理由があってもいけないことです。かつて犬養毅首相が、青年将校たちに言った、『話せばわかる!』は、忘れてはいけない言葉ではないかと思わされたのです。

(イラスト画は、http://sauber.yaekumo.com/prof/p_inukai.htmの『まあ待て。話せばわかる!』と言った犬養毅首相です)

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