今年頂いた、挨拶状の中に、「ブラウニングの詩」が記されているカードが挟まれてありました。このロバート・ブラウニング(1812~1889年)は、イギリスの詩人で、教育を受ける機会が少なかったにもかかわらず、彼の作った詩は、今でも多くの人の魂を揺り動かしてやまないものがあります。私たちは、中学か高校の国語の教科書(「時は春、日は朝・・」の一節だったでしょうか)に、彼の詩が載っていて、それを学んだのです。挨拶状の詩は、次のようなものでした(英語の原文が印刷されていました)。
“Grow old along with me
the best is yet to be
the last of life for which the first was made”
我とともに老いてゆけ!
最良のときはいまだ来たらず。
人生の終わりのために、人生の始まりは作られた。
この詩をカードに記されたのは、私に「社会思想史」という講座で教えてくださった恩師なのです。 それは、私の在米の先輩へのカードでしたが、恩師を共有する私に、師の消息を知らせてくださるために、添えてくれたのです。学校で一番大きな教室を満杯にするほどの人気講義をされており、私たちが学んだのは、師が三十代だったのではないでしょうか。『こんな澄んだ、きれいな目をしている大人っているんだ!』と感心させられたのです。師は、『みなさん、詩心をもって、これからを生きていってください!』と、最後の講義で話されたのです。今思い返しますと、師の愛唱の詩が、ブラウニングだったのでしょうか。写真に写った80代半ばになられた師の目は澄み、表情は穏やか、その心もまた、ブラウニングに感動させられていらっしゃいます。それよりも何よりも、ブラウニングの詩を心の中に宿しながら、詩心を生きておられるということになります。
私は、学んだブラウニングを全く忘れてしまっていましたが、家人は、いまだに口ずさむことができるのには驚かされてしまいました。彼女の教師は、『素晴らしい詩ですから、暗記しなさい!』と勧めたそうで、それを守ったからなのです。
実は、『詩人たれ!』と師が言われた言葉が、この挨拶カードで、やっと理解できたのです。なんと46年ぶりに修得できたことになります。この師から、このひと言を託されたからこそ、私は、受け、授けることのできた教育に、大きな感謝を持っております。幸いなことに、再び教壇、しかも異国の教壇に立たせていただいているのです。こんな素晴らしい機会(とき)はありません。白髪三千丈、昔のことばかりが思い出される今こそが、「最良のとき」とブラウニングが言っているのですから、師に啓発されて、もう一度ブラウニングを読み直したい気持ちにされております。
(写真は、ロバート・ブラウニングの肖像画です)