いのち

 

 毎年のように1万人以上の交通事故死がありましたが、1993年以降、死亡事故が激減して、法改正が行われ、厳しい罰則規定の効果が上がってきているようです。ところが最近、登校途中の学童の中に車が突込んだり、信号無視をして横断歩道の歩行者を跳ねるといった事故が、ニュースに取り上げられております。そういった事故は、何か異常なのではないでしょうか。日本の社会全体に、何か、いのちを預かる運送業務、それ以上に、一瞬にして運転操作を誤ると人名損傷を起こす運転への緊張感が薄らいできているのではないでしょうか。

 中国で6年を過ごして、自動車運転のマナーなども、日本との違いに驚かされてきましたが、それなりに注意深く運転をされていて、暗黙のうちのルールがあるのが分ってきています。車を前進させたり、後進させるとき、決して急発進をしません。対向車や歩行者に注意を払いながら、巧みなハンドルやブレーキ操作をしていますので、事故が多そうですが、思ったより少ないのです。それが上手なのかどうかは判断しかねますが、車も自転車も電気自転車も歩行者も、相手の行動を予測しながら、道路上で行動しているのです。日本だったら、『事故かな?』と思う瞬間、スルリと通り抜けているので、ホッとすることがしばしばです。

 何年も前に、台北に仕事で行きました時に、私たちを乗せてくれたタクシーの運転手は、客が日本人とわかるやいなや、「演歌」をガンガンとかけてくれました。そして、その運転ぶりは、サーカスのような曲芸の如きでした。それに耐えられなくなった同乗の台湾の方が、『お金を出すから、ゆっくり走ってくれますか!』と交渉していたのです。シンガポールは、そういった心配はないと思うのですが、娘に言わせると、『ひどい!』そうです。東京に帰って、タクシーに乗りますと、自動でドアーが開閉し、丁寧な接客の言葉がかかってきますし、運転は、雲の上に乗ってるように穏やかで、驚かされてしまいます。「雲助」と言われていた昔が、嘘のように感じさせられるのです。

 その悲しい事故が報じられて、やりきれない気持ちがいたします。自動車や電車の性能上の問題ではなく、それを繰る運転者に、やはり問題があるのではないでしょうか。性能の良い車に乗るという安心感が、油断につながるのではないでしょうか。「ハインリッヒの法則」に、『大事故の前に29の小事故があり、そして300の予兆がある!』とあります。運転していて、『ヒヤッ!』とした瞬間が誰にでもあるのではないでしょうか。私は、何度もあるので、肝に銘じるようにしています。

 先日の関越道の大事故は、運転手が居眠りをしていたこと、所定のルートでないルートを通行していたことなどが、原因として挙げられています。居眠りは、健康管理、生活管理に問題がありそうですが、運行指示書を守らなかったことには、やはり大きな問題がありそうです。自分の判断だけで、事を決めてしまい、会社の意向や指示に従わないという問題です。今では携帯電話がありますから、運転困難な事情や、迷ったりした時に本社に連絡をとることが出来たはずです。そういった連絡を受け取る、不眠の管理体制がとられていないのでしょうか。そういったものができないなら、いのちの運送を預かる運送業者としては失格ではないでしょうか。お金を儲けるだけではなく、いのちの尊重を忘れたら、こういったことが起こってしまうわけです。

 先月、次女がアメリカから、母の葬儀で帰ってきたのですが、二度着陸を試みたのですが、大嵐で、成田に着陸できませんでした。結局、関空に回されました。次男が、飛行機の航路追跡を、コンピューターでしていましので、その二回のトライも、関空に回されたことも、航路でわかっていました。ところが、航空会社の日本事務所、提携の航空会社の対応は、業務時間以外のようで連絡が取れませんでした。結局、何度もなんども電話を入れて、ついにシンガポールの本社に連絡して分かったのです。長男は、成田まで出迎えていたのですが、どうなっているのかの報告義務が、空港のロービーで果たされなくて、実に不安だったようです。

 「危機管理体制」が、国のレベルでも、民間のレベルでも、不十分なのはいけません。今日のように、科学万能の時代になっていても、感情や意思を持つ人が関わるのですから、細心の管理体制、チェック体制が、どうしても必要なのではないでしょうか。ミサイルが飛んでいるのに、外国の政府は報告しているのに、日本政府は躊躇していたのは最重大のミスです。人のいのちを預かるみなさんの猛省を促します。

(写真は、「ゆん無料壁紙集」所収の「わかば」です)

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