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魅入ってしまった一葉の写真です。次男が撮影して送ってくれたもので、十一月の終わりの都内の一郭の夕べが映し出されています。動と静、暗と明、天と地、縦と横、手前と奥行き、右と左、無色と有色、高と低、自然と人造物などの対比が見られて、なんとも言えません。
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農家の庭の柿の木に、秋になると、「柿」の実がなっていて、そこを通るたびに、『農家の子に生まれたかった!』と思っていました。桃も葡萄もドリアンも大好きですが、この「柿」ほど美味い果物はないのだと決め続けている私です。今季、近くのスーパーや「街の駅」に出掛けて、この「柿」を、何度買ったか知れません。13年も日本を留守にして食べなかった分を、今年は食べ足した様に思うのです。
柿好きを「柿喰い」と、言うのだそうです。「柿」が読み込まれた有名な俳句に、
柿くえば鐘が鳴るなり法隆寺
という、正岡子規の句があります。どんな柿を、子規が食べたのかと言いますと、朝廷に献上する「御用達(ごようたし)」に推奨されるほどに美味しい、「御所柿(ごしょがき)」でした。子規もまた、自分を、《柿喰い》と言うほど、柿好きだった様です。
戦時中に父のお世話をしてくださった方が、私が住んだ街の卸売市場の「青果商協同組合」で、理事長をやっていたのです。このおじさんの紹介で、その市場で、午前中、「仲買い(なかがい)」の手伝いのアルバイトにしていたことが、私にありました。競りが終わって、その場内を歩いていると、『準ちゃん!』と、このおじさんに呼び止められて、『これは、珍しくて美味い「御所柿」だけど、一箱上げるから、奥さんと一緒に食べたらいい!』と言って、頂いたことがありました。
どうも、それを食べてから、私も《柿喰い》になってしまった様です。本当に美味い「柿」だったのです。このおじさんは、私がお店(街の中心で果物屋をしていました)に顔を出すと、『ウナギでも喰おう!』とか、『今日は、カツ丼でも喰おう!』と言っては、訪ねるたびに、近所の食堂に連れて行ってくれた方でした。
こちらでは、ここ地場産の柿が売られていて、美味しくいただきました。それは「御所柿」よりも、また「富有柿(御所柿の改良種の様です)」より小ぶりの柿で、糖度があって実に美味いのです。きっと出回る時期は、そう長くなかったのでしょう。柿って種類が多そうです。
この「柿」を喰えば、自分の子どもの頃、また子どもたちが小さい頃のことを思い出してしまいます。これからは、家内の好きな、「干し柿」が出回るのでしょう。『柿が赤くなると、医者が青くなる!』と言われてきた様に、滋養豊富な果物なのでしょう。今季は、今日、訪ねてきた友人と家内と三人で、最後の一個を食べ終えてしまいました。
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