国境と祖国

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Lille, France – June 26, 2012: The Pasteur Institute of Lille building is a research centre and member of the Pasteur Institute network.

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 疫学者のパスツールのことばを、アメリカのハーバード大学で主任研究をされた吉田知史(よしださとし/現在は早稲田大学教授)氏が紹介しています。

『科学には国境はない!』

 欧米の大学や研究室は、外国人の研究員に、広く門戸を開いています。そう言った意味で、科学の進歩に、日本人も貢献することができたのです。北里柴三郎が、ネズミを研究台にして、破傷風の研究をしたのも、フランスのパスツール研究所でした。科学の世界は、東洋の優秀な研究者に、国境や人種や民族の壁を設けずに、そう言った研究の機会を開いたわけです。この言葉には続きがありました。

 『しかし科学者には、祖国がある!』

 多くの日本人研究者を、国籍や人種の違いにこだわることなく受け入れ、研究者間で刺激し、協力し合いながら共に研究を続けたのです。それが大きく人類全体に貢献することになったのです。それでも、それぞれの国の期待を担いながら、援助を受けながら、そこにあったのですから、祖国を考えることも忘れてはならなかったのです。

 北里柴三郎には、共同研究者がいたのですが、二人ともに「ノーベル賞」の候補に上がったのですが、諸般の事情で、柴三郎は、その機会を得ませんでした。北里に続いた、秦佐八郎は、ドイツのコッホ研究所、フランクフルト国立研究所などで、抗梅毒剤の研究を始めます。しかしノーベル賞にノミネートされますが、エールリヒと共に受賞を逸します。エールリッヒが受賞前に亡くなったからです。

 エールリッヒは、常に愛弟子たちに こう 言っていたそうです。

 『科学研究者に必要なことは、4 つのG、すなわち《資金(Geld)》、《忍耐(Gedult)》、《手練(Geschick)》、《幸運(Gluck)》である!』でした。でも《健康 (Gesund)》も大きな要素であったのですが、エールリッヒは病没してしまうのです。

 そう言った、日本人研究者の過去があって、今では、毎年の様に、日本人がノーベル賞を受賞する時代を迎えています。地道な研究で積み上げられたものがあっての「今」なのでしょう。このパスツールの言葉を紹介した吉田氏も、東京大学に籍を置きながら、ハーバード大学で研究に携わっているのです。自分の栄誉が、やはり祖国の誇りになると言った面を持ち合わせて、国際社会で活躍している人たちが、多数いることになります。

 よく言われるのは、『◯◯先生の下で!』、『☆☆研究室で!』とかで、師弟関係が、とても大きな部分を持っているわけです。私自身にも、恩師からの期待がありました。彼が纏め上げたある研究を、『ジュン、あなただったらこれを理解してくれるでしょう!』と言われて託されたものがあるのです。

 研究を敷衍(ふえん)して、発表することを願われたのですが、私の内で、その師の労作を咀嚼( そしゃく)して、自分のものにしておきたいのが、私の思いなのです。まだ若かった時、『この主題で本を書いたらどうですか!」と言われたこともありました。でも自分には、本を刊行して世に成果を問うと言う願いは全くありませんでした。

 今日も、多くの研究者が、コロナワクチンの研究をしています。国益が大きく期待されて、〈抜け駆けの功名〉でしょうか、しのぎを削る様な研究競争が繰り広げられています。それは莫大な収益が得られるからです。しかし、一人や一国の利益や栄養栄誉のためではなく、人類が共通している厳粛な課題や問題を、国境を越えて、全人類の益のために、協力し合えないかと思わされてなりません。

(「パスツール研究所」です)

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