教育

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 今は自家用車を持ちませんので、移動するときには、公共バス、タクシー、友人の好意で彼女の車に乗せて頂く、そういった交通手段を使い分けています。もちろん徒歩が多いのですが。それから、もう一つは、マウンテン・バイクがあります。日本に留学している若い友人が置いていってくれたもので、大変便利に使っています。それでも雨や風の強い日には、『車があったらなあ!』と思ってもみますが、『健康第一、安全第一!』でふん切りをつけております。

 さて、こちらの公共バスですが、男性に混じって女性が大きなハンドルを回して運転をしているのです。男勝りだと思いますが、男性の職域だと思っている私たち日本人の考えとは違って、こちらではごく普通なことです。ところで男性のバスの運転手ですが、多くの方の運転が荒いのです。軽自動車に乗っているようなハンドルさばきをしたり、急ハンドル、急停車、割り込みなどは朝飯前なのです。家内などは急発進で、何度も座ってる乗客の膝の上にのってしまうほどです。それに、よく怒鳴っているのです。『運転席の近くにいないで、奥の方へ行け!』と、お客様であることを忘れて乗客の私たちに荒らげた言葉をかけて平然としています。走行のじゃまになる自転車やバッテリー付自転車、歩行者に、車の中でぶつぶつと文句を言っています。天津にいたとき、昼時だったので、その運転手は、彼好みのランチを売っている食堂の前で停車して、飛んでいって買うのです。待っている乗客も、文句ひとつ口に出さないで、黙って待っていました。『これって普通のこと!』と、割りきっているのでしょう。でも一番怖いのは、携帯電話をしながら、乗客を運んでいることです。それで事故を起こさないのですから、運転技術と注意力は抜群です。彼らの待遇が良くないのが、もろもろの根なのかも知れません。そんな状況ですから、〈都バス〉の運転手のような優しい運転をするバスに乗ると、ほっと一息ついてしまうのです。

 さて、私たちには二人の娘がいます。彼女たちを訪ねたときは、彼女たちの運転する車に乗せてもらうのです。その運転ですが、親の自慢のように聞こえますが、運転が、とても上手なのです。もう私を超えているかも知れません(そう自慢してます!)。ところが玉に瑕、運転しながら、二人ともうるさいのです。対向車や前を走っている車や歩行者や自転車に対して、『ああでもない、こうでもない!』と〈いちゃもん(不平や文句のことです)〉をつけています。聞いていて笑ってしまいます。この様子を見聞きしている家内は、『そっくり!』と私の顔を見て笑うのです。二十年も私の運転する車に乗り続けて、その一挙手一投足を見続けててきた彼女たちは、どうも親爺そっくりの運転をし、同じようにブツブツと言うのだということが分かりました。教育とは空恐ろしいことですね。このように、コピーが出来上がっているのですから。

 しかし、私の車の助手席に乗っていた家内は、性格は温順(実は、彼女のお父さんに似て結構激しくて短気を継承しているのです。これも教育・・・)に見えるので、その感化も受けているに違いないのですが。〈三つ子の魂百までも〉、恥じ入るばかりです。

 この春、日本に帰っていましたときに、高知に旅行をしました。飛行場でレンタカーを借りて、目的地まで高知のバイパスを走ったのです。これまで、2006年に国を出てから、車の運転時間を総計しても1時間に満たないほど、運転から遠ざかっておりました。家内に言いますと、きっと反対すると思いましたので、レンタカー予約は内緒にしておいたのです。勇躍、公道に乗り出して、ハンドルさばきの勘を戻しつつあったのですが、進路変更のタイミングがまずかったのでしょうか、大きなクラクションを鳴らされ、怒鳴られてしまいました。すんでのところで事故になったかも知れませんが、この方の運転が上手で難を逃れることができたに違いありません。土佐弁で怒鳴られるとは予想もしていませんでしたので、坂本龍馬や武市半平太を思い出してしまいました。何十年も運転して、文句を言ってきた私への返礼を、土佐の高知で見舞われたことになります。

 わが家庭教育ですが、好い感化もあったのだと思うのですが、どうでしょうか。これって〈遺伝〉ではなく、やはり〈教育〉なのです。私の親の世代は運転することがありませんでしたから、誰に自分が教育を受けたのか皆目見当がつきません。もしかしたら、性格の悪さなのでしょうか。そうだとしたら、反省して直していかなければなりません。そんなことを考えていますと、孫たちのことが心配になってきました。この悪習慣を受け継ぐのかと・・・。しかい嫁や婿の善い影響をうけるかも知れませんし、再教育という手もありますし。自分を責めないことにして、大陸の秋の宵を楽しみにしましょう。今宵は、教え子と彼女の男友達が、故郷から美味しいものをもってやってきて、夕食を作ってくれるそうです。楽しいこともあるので、がっかりしないことにしました。

(写真は、高知市内から室戸岬に行く途中の「大山岬」です)