4月21日に、中国に帰って来まして以来、以前と違うことが一つあげられます。何となく家の中が、《暗い》ではありませんか。電気がついていないからなのです。今回の帰国で、長男の家、そして次男の家に寄宿させてもらっておりました。あの3月11日からの40日ほど日本滞在中には、計画停電がおこなわれ、節電も余儀なくされたのです。ただ、次男の家は23区以内の都心ですので、計画停電の除外地域でしたから、強制的な停電はありませんでした。しかし次男は、いつもですとこの季節、ガンガンと暖房をかけていますのに、あの日以降、字が読めないくらい室内の照度を落として生活をしているのです。蛍光灯や白熱球ではなく、LED電球に付け替えて、消費電力を落とす努力をして生活しているのです。それが習慣化してしまったのでしょうか、3ヶ月ぶりのこちらでの生活でも、つい《節電》してしまうのです。日本のような明るさには、ちょっと届かないこちらの夜間照明ですが、この夏の電力消費量をまかない切れないのだと、ニュースが報じていました。
 
 そんな日本や中国の電力問題のことを、私なりに考えていましたら、今日のニュースで、今上天皇、明仁さまご夫妻が、計画停電の除外地域にある皇居ですのに、ご自分の住宅や執務室で、時間を決めて《計画停電》を、一日も休まずにしてこられたと報じていました。その累計時間は、130時間だったそうです。ご自分を厳しく律して生活をされているのは、私たちが倣うべき模範ではないでしょうか。これこそ王道を歩まれる真の王さまではないでしょうか。このような謙遜で自重される王を戴いています私たちは、お二人に感謝しないければならないと思わされたのです。

 被災者のみなさんを慰問されたときには、お二人で黙祷されておられる後ろ姿を見て、お年を召されて少々小さくなられた明仁さま、美智子さまですが、凛(りん)とされておられるのを見て、私も背筋を伸ばしてしまいました。優しいのですね、お心が。中学生の明仁さまが、学校の旅行のおりに、友人たちとトランプをされておられた写真を見たことがあります。家で、ゲームなどしたことなどなかったのでしょうね。十代の多感な明仁さまが、楽しく興じられているのを見て、親近感が湧いてきて、皇室と私たちとの距離が、大変縮められたのを感じたのです。

 好きなときに駄菓子屋に飛んでいったり、食べたくなって中華そば屋の暖簾をくぐったことなど、一度たりともなかったでしょう。もちろん生活苦などなかった代わりに、私たちが何気なく楽しめたことを楽しめなかった境遇を思って、申し訳ないなと思ったりもしました。でも、御夫妻は、いつでも私たちと同じ目線に立って話し合い、握手をし、感情を分かち合いたいのです。そうできない立場も認めなければなりませんが、不自由の中を歩んでこられた皇室のみなさまの上に、心からの祝福を願っております。

 明仁さまは、お病気をお持ちですから、健康にご留意され、いつまでも私たちの《キング》であったほしいと思う、「憲法記念日」の前の晩、遥かに故郷に想いを向ける夕べであります。

(写真は、4月27日に三陸町歌津でもうとうされる、明仁さま、美智子さま御夫妻です)

たかが・・・されど

 
 30年ほど前の1979年に、「チャイナ・シンドローム」というアメリカ映画がありました。「怒りの葡萄」や「荒野の決闘」で熱演した、往年の名優ヘンリー・フォンダの娘、ジェーンがテレビ局のキャスターを演じたものでした。その内容を、goo映画から転載します。

 「キンバリー(ジェーン・フォンダ)は、ロサンゼルスのKXUAテレビ局の人気女性キャスターで、ある日、彼女は、カメラマンのリチャード(マイケル・ダグ ラス)と録音係のヘクター(ダニエル・バルデス)をともなって、ベンタナ原子力発電所の取材に出かけた。厳重なチェックを受けた3人は広報担当のギブソン (ジェームズ・ハンプトン)の案内で、取材を開始した。しかし、中心部のコントロール・センターでカメラを回そうとしたリチャードが、ギブソンに禁止だからとそれを止められる。その時突然震動が起こり大騒ぎの制御室の中で技師のジャック(ジャック・レモン)が冷静に指示を与えている。やがて、放射能もれがわかり、原子炉に緊急停止の命令が出された。その様子をリチャードがカメラに収める。スタジオに帰ったキンバリーは、早速プロデューサーのジヤコビッチ (ピーター・ドーナット)に、そのことを報告した。原子炉の事故は一大スクープになるはずだ。しかし、ジャコビッチは、このニュースを流すことに反対し た。

 調査の結果、その後の発電所に異常が認められないため、運転が再開されることになるが、ただ1人、ジャックだけは不安な予感を抱いていた。発電所の近くの酒場で、ジャックはクビを言い渡されたリチャードを探していたキンバリーと出会った。リチャードは、例のフィルムをもったまま行方をくらましているのだ。キンバリーと別れたジャックは、かすかな震動を感じ、原子炉を調べにいった。やはり、ポンプの一つにもれがあった。もう少し様子をみてから運転を再開 すべきだというジャックの忠告に、しかし所長は耳をかそうともしなかった。
 翌日、取材に出かけたキンバリーは、偶然、リチャードに会う。彼は、例のフィルムを物理学者のローウェル博士(ドナルド・ホットン)に見せにきたのだ。フィルムを見た博士は、もう少しでチャイナ・シンドロームになるところだったと断 言した。チャイナ・シンドロームというのは、原子炉の核が露出した時、溶融物が地中にのめりこんでいき、地球の裏側の中国にまで達するという最悪の事故のことだ。一方、ジャックは、発電所内の各所にあるパイプ結合部のX線写真を調べているうちに、重大なミスを発見した。それは、納入業者が製品チェックの手ぬきのために、同じ写真を何枚も焼き増ししたものなのだ。

 事故の原因追求に悩みぬいた末、ジャックはX線写真をキンバリーに渡し、世論に真相を訴える決意 をする。しかし、その頃、何者とも知れぬ者たちが動き出し、まずX線写真をとりに行ったヘクターが車ごと崖下に突き落とされ、ジャックも彼らの追跡をうけ、命をねらわれた。そこで、ジャックは残された1つの手段を決行することにした。それは、発電所の中心部にジャックが篭城し、発電所をキンバリーに取材させ、内部の異常を世間に知らせようというもので、言うことをきかなければ、核をもらすと所長を脅した。しかし、外から中心部を操作できる発電所の人間 が、発電所の動きを止めたため、ジャックは射殺され、すべて酔っぱらいのたわごととしてかたづけられることになつた。しかし、キンバリーは、追求を続け、 発電所内の人間の証言をとり、ニュースで事実を発表するのだった。 」

 題名の「チャイナ・シンドローム」は、アメリカの原発が炉心溶解を起こしたら、地球を突き抜けて反対側の中国にまで熔けていってしまうのではないかという会話の中のジョークから付けられているのだそうで、中国を非難しているのでは決してないのです。3月の東北大震災、それにともなって起きた原発事故は、自然災害ではなく《人災》なのでしょうか。先日も、渋谷で抗議デモがあったとニュースが伝えていました。たかが映画ですが、されど映画なのでしょう。人の営みを警告しているメッセージには、目と耳と心を向けて、正しく状況を理解し、どうすべきかの判断を下したいものです。

(写真は、映画「チャイナ・シンドローム 」のポスターです)