韓国語で、トゲウオ(棘魚)のことを、「カシコギ」と言うのだそうです。この魚のオスには、独特な習性があって、それを題材に、韓国で小説が書かれました。もちろん題は、「カシコギ」で、韓国ではベストセラーを記録したそうです。その反響の大きさを知って、関西テレビが、この小説が映画化されたものを、日本版に「リ・メイク」しています。その題名は、「グッドライフ」で、その番組のサイトに、次のようなイントロダクションがありました。
~父親と子供の距離は永遠の探り合い。その伝わらない“もどかしさ”、“切なさ”こそが父と子の物語そのものだと言えるだろう。父性とは、自然に備わるものではなく、子供のために奮闘することで獲得するしかないものだとしたら、父親という生き物は、何と不器用で、哀しく、愛おしい存在ではないだろうか? 子供と一緒に過ごせる時間に限りがあると知った時、 父親は子供に何をしてあげられるか?2000年、韓国で200万人が涙し、“カシコギ・シンドローム”を巻き起こした 話題の韓流ベストセラーが原作の感動のヒューマンドラマ。 息子から自分に向けられた愛に気づいた父親が、白血病と闘う息子を献身的に看病する、 親子の哀しい運命を描く、無償の愛の物語~
多くの小説がテレビ化、映画化、舞台演劇化されていますが、「母子物」がほとんどで、このように「父子」の関係を取り上げるのは珍しいのではないでしょうか。1週間に一日、私は「脱力日」をもうけて、珈琲を飲みに出かけたり、PCで日本の映画やTVドラマを配信しています、こちらのサイトで観たりします。昨日は、この「グッドライフ」と偶然に出合って、つい10本全編を観てしまいました。いやー、とても良かったと思います。親子、夫婦、家庭、それぞれの在り方に、一石を投じていて、子育てを終えた私ですが、足りなかったことを教えられたりで、メモまでしてしまいました。
これを観ていましたら、次男が、小学校5~6年の間に、帝京大学病院に6回ほど入退院を繰り返し、手術をしたことがあったのを思い出してしまいました。小児病棟にいて、同じ時期に、白血病の「だいちゃん(?)」がいて、同室でしたし、一緒にプレールームで遊んでいたのを覚えています。病気治療のために、学校を休んで入院しているといった、同病者にしか分からない、同じ境遇の子どもたちの「連帯感」の強さや「友情」の輝きを見せてもらったのが、とても懐かしいのです。テレビの主人公の羽雲(わく)と同じように、次男の病友が、キモセラピーの治療後に、嘔吐していたのを、見舞ったときに見てしまったことがありました。あの「だいちゃん」を、ときどき思い出しては、『どうなったんだろう?』と思っています。羽雲の同室の病友は、「たいちゃん」でしたが、彼との死別体験もありましたから。あれから20年以上も経ちます。
この「トゲウオ」というのは、淡水魚で、オスは、メスが産み捨てた稚魚を必死に育て、子が成長していくと自らは死んでいくのだそうです。この不思議な習性のように、白血病に冒された主人公の羽雲を、父親として守り励ましていくのです。自分の父親が自殺をしてしまうといった辛い過去を持ち、それをはねのけるように、彼自身も、「敏腕ブン屋」の仕事人間だったのです。そういった背景ですから、人間関係の構築のできない彼は、妻と離婚してしまい、部下を自殺未遂にまで追い込むほどの上司だったのです。羽雲を男手ひとつで育てていく中で、父の役割、父性を呼び覚まされていくのです。そんな中で彼自身が、「肺癌」に冒され、余命半年の宣告を受けます。この病を息子にも元の妻にも語らないまま、過ごしていくうちに、多くの人間関係も回復させていくのです。一番の回復は、彼自身が自分、自分の過去と面と向かって、その関係を回復していく課程が描かれているように感じたのです。
ちょうど「死生観」について講義をしようと調べ物をしていましたので、このタイミングに驚いてしまいました。こういった健全なテレビ番組を、もっと多くの人に観ていただきたいと思いました。それよりも何よりも、私自身が、自分の「いのち」、「病」、「死」について、しっかり見つめ直してみようと思わされたのは、素晴らしい機会でした。『あなたの余命は半年です!』と言われないとも限りませんから、しっかり面と向かって、来し方に思いを向け、将来にも思いを振り分け、「いのちの重さ」を再認識させられている小雨の週末であります。
(写真上は「グッドライフ」の父・澤本大地を演じた反町隆史と息子・羽雲を演じた加部亜門〉の一場面、下は、トゲウオの一種です)