鳩とカナリヤ

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 すぐ上の兄は、伝書鳩を飼ったり、十姉妹の餌付けをしたり、小動物を可愛がっていたのです。とくに鳩は、小屋を作って、餌を上げたり、飛ばしたりしていました。あの頃の中学生たちの間で、この鳩の飼育が流行っていたのです。鳩の習性は、素直で帰巣本能を持っていて、放つと、しばらくして飼い主の元に、帰って来るのです。

 鳩の足に、文書を収める筒(軽量なアルミ製でした)を付けて、通信のために有用なのです。初めは、軍事や報道や医療(緊急に薬や血清の送致が行われていた様です)などの情報などを送受信するために用いられたのです。1960年代頃まで有用でしたが、通信手段が発達してからは、それらに取って代わってしまったのです。最も古い通信手段は狼煙(のろし)、伝書鳩、飛脚や伝馬など、郵便料金が上がっても、前島密が、ヨーロッパに郵便制度を導入した貢献は今に至り、IT時代でもまだまだ役割がありそうです。

 この伝書鳩として用いられるのは、カワラバト(河原鳩)と呼ばれるもので、人懐こい性質を持っているそうです。もう5000年前にはシュメールで、3000年前にはエジプトで飼われていたとの記録があります。またギリシャのポリス(都市国家)間で、古代オリンピアードの競技結果の知らせなどで用いられていたそうです。

 その他の動物が、役割を担っていた例では、「カナリヤ」がいます。作詞が西条八十、作曲が成田為三の「歌を忘れたカナリア」という歌があります。

  歌を忘れたカナリヤは
後ろのお山に棄てましょか
いえいえそれはなりませぬ

歌を忘れたカナリヤは
背戸の小藪に埋け(埋め)ましょか
いえいえそれもなりませぬ

歌を忘れたカナリヤは
柳の鞭でぶちましょか
いえいえそれは可哀相

歌を忘れたカナリヤは
象牙の舟に 銀の櫂
月夜の海に 浮かべれば
忘れた歌を 思い出す ♫

 捨てられるカナリアが可哀想だと言って、同情した子どもの優しい気持ちが込められた歌です。作詞者の西条八十は、歌謡曲の作詞をした人で、「だれか故郷を思わざる」、とか「東京行進曲」などで有名ですが、もともとは児童文学を専門としていた童謡詩人だったのです。

 『捨てる神がいて拾う神がいる』のだそうですが、初期には、炭鉱経営者が、炭鉱夫のみなさんの作業の安全のために、このカナリヤを重用しています。炭坑の中に入っていく作業員の先頭に、鳥籠を持つ作業員が、まず入っていったそうです。

 炭鉱の中を進んで行きますと、カナリアの鳴く声が止まったり、力を失って死んでしまったりすると、炭鉱内にメタンガスのような有害ガスが発生していることを知らせてくれるのです。それが起こると、緊急避難で、退出することができたわけです。

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 化学的な器具ではなく、生物学的な方法で、ガス発生を検知するカナリヤが、そう言った役割を担っていたわけです。そう言ったことから、英語には、

 “ like a canary in a coal mine (炭鉱の中のカナリア)」

との言い回しがあるのです。まだ何も起きていないのですが、その自体が危険だということを知らせることを言っています。カナリアの嗅覚を通して、危険が回避できるわけです。私の家の台所に、ガス検知器があって、ガス保安の係の方が操作した時に、けっこう大きな音でガス漏れを知らせてくれていて驚きました。

 炭鉱員をいち早く危険地域から退避させる役割を果たした鳥でした。人間に感知できない有毒物質を敏感に感知し、危険を知らせてくれたのは感謝なことだったのです。この歌は、歌い出しはかわいそうですが、同情する子どもによって、優しくせっしようとする気持ちが現れていて、何か安心した子どもの頃を思い出しました。

 昨今、世界中で危険な事態が起こっているニュースが溢れています。その危険を検知できる、鋭敏な感覚を鈍らせないことが肝要だと、「ガス検知カナリヤ」のことを思い出して、考えさせられるこの頃です。

(ウイキペディアのカナリヤ、死にかけたカナリヤを蘇生させる装置です)

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