みずうみ

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みずうみ        茨木のり子

だいたいお母さんてものはさ
しいんとしたとこが なくちゃいけないんだ
めいぜりふ
名台詞を 聴くものかな!
ふりかえると お下げとお河童と
二つのランドセルがゆれてゆく 落葉の道
お母さんだけとはかぎらない
人間は誰でも心の底に しいんと静かな湖を持つべきなのだ
田沢湖のように深く青い湖を
かくし持っているひとは 話すとわかる
二言 三言で
それこそ しいんと落ちついて
容易に増えも減りもしない自分の湖
さらさらと他人の降りてはゆけない魔の湖
教養や学歴とはなんの関係もないらしい
人間の魅力とはたぶんその湖のあたりから発する霧だ
早くもそのことに気づいたらしい
小さな二人の娘たち

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中国の日本語を学んでいる学生のみなさんに、この茨木のり子の作品を紹介して、作文を書いてもらったのです。「わたしが一番きれいだったとき」や「自分の感受性くらい」の二首の詩でした。戦争中に学生時代を過ごさざるを得なかった日本の学生の、戦時と戦後の思いを伝えたかったからでした。また感受性の豊かな人となって欲しかったからでした。

また作者は、二人の娘に、霧を立ち上らせる様な「田沢湖」、この湖の深さや静けさを、心の底に持つ様に勧めているのでしょう。それは学歴や教養に高さによって得られるものではないので、霧のように自ずと立ち昇るのだと言っているのです。

(HP“ ぐるたび ぐるなび ” から「田沢湖」です)

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