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真っ赤な血が、吹き出しそうに、血の中でもがいていた若い日に、それとは裏腹に、反動の様に、淡いものへの憧れがあったのでしょうか、純白の「ムクゲ(木槿)」の花が大好きで、心がわずかに凪(な)いできた今でも、大好きなのです。
大陸中国の原産で、朝鮮半島を経由して、平安の代に、こちらに渡ってきた花です。「槿花一朝の夢(きんかいっちょうのゆめ)」と言われ、明け方に咲いては、その日の夕刻にはしぼんでしまうのです(翌日まで咲き続けている花もあるそうです)。その「潔さ(いさぎよさ)」が、ことの外よいからでしょうか。
それがしも 其(そ)の日暮らしぞ 花木槿
これは、小林一茶が詠んだ俳句ですが、松尾芭蕉も、詠んでいます。ここ栃木は、「下野国(しもつけのくに)」と呼ばれてきました。その下都賀郡野木町(県の南端に位置します)に、芭蕉の句碑があります。その句碑には、
道のべの 木槿(もくげ)は馬に くはれけり
と刻まれています。そうしますと、ムクゲの花は、日本のそこかしこに、垣根として植えられて、夏から秋にかけて咲き誇っていたことになります。葉や茎や根が、〈下痢止めの漢方〉として重用されていますから、馬は、よく、その効能を知っているのでしょうか。
この家の庭にも、ぜひ植えて見たいなと思っています。3メートルほどの丈に伸びるのですが、来年は咲くでしょうか。来年といえば、家内は、好きな絵師のカレンダーを注文しています。望みに溢れて、来年を迎え、生きていくつもりでおります。
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