正念場

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 上海で、会社経営されておられる現地法人の社長が、中国との決別を、『本気で考えているのです・・・ところが、なかなか最終的な踏ん切りがつきません!』とおっしゃっておられうようです。この彼は、その理由を次のように語っておられます(「ダイアモンド・オンライン」の記事から)。

 ・・・『中国人従業員たちが気がかりだ』と語る。たった30人のメンバーだが、そこには家族同然の感情がある。彼らはいつも目を輝かせて技術指導を受け、『社長、社長!』と慕ってくる。そんな従業員を経営者は食事に連れて行ったり、上海の自宅に招いたりもする。
 反日デモについても朝礼で取り上げた。『君たちはどう思う?』――。こうした非常時でも、タブーなく互いの考え方を言い合える関係を、7年かけて築き上げた。
 毎年秋には恒例の社員旅行がある。今年は反日デモが落ち着いた10月に、浙江省の海沿いの観光地に連れて行った。従業員は四川省や安徽省、江西省 など内陸からの出身者が多く、彼らにとっては生まれて初めて見る海だったという。彼らは『もう二度と海を見ることもないだろうから!』と言って、秋の海には しゃいで飛び込んで行った。
 『なんだかんだ言っても、俺には彼らがかわいくてたまらない。そんな中国人従業員を捨てられるものか!』とAさんはいう。
 反日デモで揺れる日本企業だが、Aさんは社員旅行でそんな思いを強くしたようだ。・・・

 七年間手塩にかけて育て、面倒を見てくれた社長を慕う中国人従業員がいること、また若い従業員を家族のように思う経営者がいるのを知って、感動でした。この中国の日系企業者の中に、儲けるだけの目的でない経営者がいることを、中国のみなさんに知ってもらいたいと思ったのです。ミャンマーやバングラディッシュに、拠点を移すことだってできるのですが、それを躊躇させている、《中国人への愛》が、私に迫ってきたのです。

 貧しい農村から出てきた青年たちを、搾取するだけの経営者だっているかも知れませんが、驚くほどの家族愛を持って世話をしてきた、この社長の《悔しさ》を感じてならないのです。この夏、上海から乗り込んだ船に、内陸の農村から出てきた娘さんたちが四人ほど同船していました。『どこへ行くの?』と聞いたら、『大阪の水道のメーターを作る工場に働きに行くんです!』と答えてくれました。船に乗って海を渡り、外国に行くなんて、初めての経験で、期待と不安とで、彼女たちの心が満ちていました。それで互いに励まし合っていたのです。『日本語を少し勉強してきたので、発音を直してくれますか!』と言うことで、しばらく〈甲板授業〉をしました。それを、とても喜んでくれたのです。

 しばらく交わっていると、夕食を食べる様子がなかったのです。彼女たちには、船のレストランの一食800円もする食事代は、人民元で60元以上もするのですから、食べられなかったようです。そこで私は、ちょっとおせっかいなことをしてしまったのです。『日本に、つらいことが待ち受けてるかもわからないけど、一生懸命に働いてね!』という気持ちを込めて、〈就職祝い〉にカップヌードルを差し入れしてあげたのです。大変喜んでくれた彼女たちは、翌朝、大阪港から、迎えのバスに乗って就職先に向かいました。

 日本での経営者が、低賃金の労働力で働かせるだけではなく、賃金や福利厚生のめんで、厚遇してもらえるような祈りをもって見送りました。このままで、中国と日本は決裂してしまっていいのでしょうか。きっと何か建設的な解決の道筋があると思うのです。知恵の出し比べの〈正念場〉というのが、今なのではないでしょうか。中国で働く若者たち、そして日本で働く若者たち双方が、将来家庭を築いていくであろう彼らが、金銭的にも精神的にも豊かになって欲しいと願う、華の金曜日の夕方であります。

(写真は、上海で、「蘇州号」に乗り込んだターミナル、対岸に上海テレビ塔が見えます)

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