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暑かった2024年も、もう押し迫ってきて、「年の瀬」を迎えています。そうなりまと、必ず封切られた映画があり、有名だったのは「忠臣蔵」と、「男はつらいよ」でした。時代劇が衰退してしまった今は、もう赤穂浪士の討ち入りが観られないようになりましたが、ただリバイバル上映は、テレビの専門チャンネルでは観られます。そんな中で、いまだに人気なのが、車寅次郎を主人公にした映画、「男はつらいよ」なのだそうです。
「虎さん」、はみ出し少年のような心を持ち続けた、昭和を代表する一人なのです。この虎さんの様な人が、身内にいたら退屈しないだろうと思いながら、この頃、Youtubeで、「男はつらいよ」の予告編を、時折り観ているのです。それでも第一作だけは、上映時からずいぶんと時が経ってから、何編かは観たことがありました。
中華料理ばかり食べていて、時折、街の大きなホテルの昼食招待券をいただくと、和洋中の料理をいただけたのです。とても懐かしくなって、刺身やお寿司や茶碗蒸し、たまには土瓶蒸しなどもあったでしょうか。そんな機会が嬉しかった同じ気持ちが、この渥美清演じる映画で、感じたのです。
この映画が始まった1969年(昭和44年)は、危なっかしく自分が生きていたのです。これじゃいけないと回心して、母の集っていた教会に行き始めようとしていた頃でした。品の良さそうでない「テキヤ(的屋)」とか「香具師(やし)」と呼ばれる人を、主人公にした映画は、一方では羨ましくもあったのですが、敬遠して観ませんでした。
この香具師は、終戦後の闇市を仕切っていた露天商で、子どもの頃に、お祭りの沿道や、町内や小学校で開かれた運動会が行われていた時に、校門の外に、簡易テントを張って、焼きそば、みかん飴、ヨウヨウ釣り、綿あめなどを売っていた、この露天商の人たちのことなのです。小学校の同級生のお父さんにもいました。
いわゆる、〈ヤクザな稼業〉なのです。刀をふるい、サイコロや花札が飛ばす様な博徒や暴力団ではなく、大道で物売りをしながら、生活をするのですが、厳しい決まりがあるのだそうです。場所の仕切りをする親分のもと、割り当てられた場所での販売権を買って営業していたのでしょう。
道端に店を開いて、バッグや掛け時や着物などの販売は、「啖呵売(たんかばい)」と呼ばれて、独特の「口上(こうじょう)」があり、この寅さんは、それを演じていました。
『さあさあ ご用とお急ぎのない方は 寄ってらっしゃい 見てらっしゃい ここに取りいだしたる◯◯は そんじょそこいらにあるものとは ちと違う 買わなきゃ損損 今が買い時だよ!』と、流暢に決まり文句で売るのです。品の悪い言葉遣いでしたが、あの時代を反映していたでしょうか。
日本中、皮製の角鞄を引っさげ、帽子をかぶり、ダボシャツと呼ばれる下着の上に背広を着込み、毛糸の腹巻き、雪駄を履いて、虎さんは、颯爽と売り歩くのです。街角の人通りの多そうな箇所で、店開きをします。やはり郷愁を感じさせる様な場面、昔懐かしい風景が映り込んでいる、そんな場面の設定の映画でした。
この寅次郎は、決して図太い神経の持ち主ではなく、ナイーブな人で、いつも相手のことを思っています。それゆえ怒りを爆発してしまうのですが、長くは続きません。謝ったり、とぼけたりで、すぐ気分転換できるのでしょうか、人との関係を作り上げるのに長けているのです。地方での出会いで、すぐに恋に落ちてしまう設定の映画でした。
それでも、それだから心の中では仕切りに泣いたり、悔やんだりしているのですけど、自分の近くで、自分と同じ様な境遇にいる人たちに、同情的に生きている人物、憎めない人、三枚目を貫いてしまう様な人、そんな設定です。
歌舞伎の演目で登場し、NHKのアナウンサーや声優が発生訓練で暗記した「下郎(ういろう)売」の口上があります。
『拙者親方(せっしゃおやかた)と申すは、お立会いのうちにご存知のおかたもござりましょうが、お江戸を発って二十里上方(かみがた)、相州小田原一色町をお過ぎなされて、 青物町へ登りお出でなさるれば、欄干橋(らんかんばし)虎屋藤右衛門、ただ今は剃髪いたして円斉と名乗りまする。
元朝(がんちょう)より大晦日(おみそか)まで、お手に入れまする此の薬は、むかし陳の国の唐人、外郎という人、わが朝(ちょう)へ来たり。
帝(みかそ)へ参内(さんだい)の折から、此の薬を深く籠めおき、用(もち)ゆるときは一粒ずつ、冠(かんむり)の隙間より取り出だす。よって、その名を帝より「とうちんこう」と賜る・・・』
コレは、けっこう長い口上で、日本語学習にも取り上げられる「名文句」なのです。自分も挑戦してみましたが、出来ずじまいに終わりました。
この「男はつらいよ」には、「日本人の心情」が描き出されているのでしょう。狭い日本どこへでも行く虎さんと女性との出会いだけではなく、土地土地に住む人々、消えて変化していく文化、伝統、風情、自然、景色、そして庶民の生活が描かれ、残されているのです。温かさや音や匂いが感じられ、郷愁を呼び起こしてくれます。父や母を思い出させ、生きて生活史は時代を彷彿とさせてくれるのです。
(ウイキペディアのテキヤの露店、映画に斑になった京成柴又駅です)
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