揚げ足を取る

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  「揚げ足を取る」を、広辞苑でみますと、『相手が蹴ろうとしてあげた足を取って逆に相手を倒す意から、相手の言いそこないや言葉じりにつけこんでなじったり、皮肉を言ったりする。 』とあります。相撲の技の手の一つですが、豪快な上手投げとか呼び戻しなどに比べると、小技と言えるでしょうか。相撲の勝負にしろ、人間関係にしろ、姑息(こそく)なことだと言えるでしょうか。

 麻生太郎元首相が、国語力の弱さを糾弾されていたことがあります。学習院大学を出て、スタンフォード大学に留学した学歴を持っていても、語彙力が足りなくて、マスコミから何度となく槍玉に上げられていました。非難する新聞記者は、言葉に仕え、言葉で生きている業界人ですから、語彙力が豊富であって当然ですが、それを威の傘に、間違いを糾弾するとは、実に姑息で、卑怯な方便だといえます。かたや首相たる麻生太郎は、国政を預かる身です。漢字を読み違えたり、語り違えても、国事に当たる能力に関係があるのでしょうか。それだったら、国語学者が政治家にならなければなりません。

 NHKのベテランアナウンサーでも、時には間違いをすることもありますし、いわんや新人アナウンサーでしたら、ちょくちょくあるようです。この私も、覚え間違い、書き順間違いの漢字が沢山あります。何時でしたか、「にいがた」という字を間違えて書いていました。『広田さん、にいがたの「かた」の字が違うと思うのですが?』と指摘されたのです。彼女は、私を陥れようとしたのではありません。間違いを訂正してくれたのです。その時から、「新潟」の「潟」の字を正しく書けるようになったのです。小学校の時に、きっと病欠で休んでいて覚えなかったのでしょうか。40を超え、次男が新潟の高校に入学した頃のことだったと思います。彼が新潟に行かなかったら、覚えないまま今日にいたっていたのだろうと思います。語彙力と人格、語彙力と行政能力と、ほんとうに相関関係があるのでしょうか。

 一国のリーダーを揶揄し、侮辱し、すなわち、「揚げ足取り」をしていることは悲しいことではないでしょうか。子どもたちに、『日本の国のリーダーは馬鹿なんだ!』と教えていることになります。そのようなことですから、日本の国を愛し、国を思う思いが、この時代の子どもたちのうちに育たないのではないでしょうか。ある国で、女性が、姦淫の現場で捕まえられました。その罪は「石打ち刑」だったのです。ひと騒動起こったとき、ある人が、「あなたがたのうちで罪のない者が、最初に彼女に石を投げなさい。」と言いました。すると彼女を取り巻いていた人のうち、年長の者からはじめて、一人一人その現場を去っていくのです。人を糾弾し、避難できる人は、間違いを犯したことのない者だけだというのが、この物語の伝える1つの原則です。だれが麻生元首相を非難できるのでしょうか。できるのは金田一京助か白川静ならできそうですが、お二人とも物故者です。

 先日も、ある閣僚が、〈問題発言〉をしたと言って、マスコミが騒いでいました。この方の友人が東日本大震災の津浪で亡くなったです。その彼を、『逃げなかったバカな奴!』と言った言葉がマナ板の上にのせられたのです。私は、この言葉を聞いたときに、〈反語〉だと思ったのです。『あいつは馬鹿だよ、逃げていれば助かったのに。逃げないで余計なことをしたからだ。惜しい友を失った。残念!』という風に聞こえたのですが。正しいのかどうか分かりませんが、私は善意で聞くことができたのです。閣僚のポストは、そんな一言で失うほど軽いものなのでしょうか。支持しようが支持しまいが、一国の閣僚の任に当たっている方への〈敬意〉が全く感じられないのです。もちろん、私は以前の首相のあり方に賛同できませんで、批判をしましたが。それは、国を憂えたからであります。揚げ足をとったのではないと確信しています。

 〈言葉の暴力〉、この時代のマスコミがしていることではないでしょうか。私たちの国の首相の在位期間が非常に短く、めまぐるしく政権が交代する裏に、マスコミの関与が強力にあるように感じてなりません。どうして、国民の総意として選ばれた人材を育てていこう、支えていこうとしないのでしょうか。私は前の首相は好きではなりませんでしたが、選ばれたからには支えていこうと決心しました。しかし、器ではなかったことは、誰もが認めざるをえない露呈された自明の事実だったからです。

 昔、小兵(こひょう)の鳴門海とか若葉山が、高位の巨漢の横綱や大関の足をとって、勝った相撲がありました。あれは小気味の良い足取りでしたから、賞賛に値しますが、言葉尻を取り上げての姑息な〈揚げ足取り〉は大っきらいです。マスコミの猛省を促す!

(写真は、江戸期の大相撲の錦絵です)

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