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最後の幕臣、江戸市民150万の命と財産とを火の海から守って、無血開城した功労者の勝海舟は、諸大名と同位の直参旗本でした。勤王派の志士たちが、テレビや映画の主人公として、現代では脚光を浴びていますので、彼らの陰で脇役を演じているのが、勝海舟だといえるでしょうか。西郷隆盛や坂本龍馬が、外様大名の藩政のもとで下級武士でしたから、比べるなら身分的には雲泥の差があったことになります。それでも英米の外国勢力が日本を干渉し始める頃には、尊皇攘夷が叫ばれ、立場が逆転して、薩摩や長州や土佐の各藩の下級武士の間から、倒幕運動が起こり、大きく日本が変わっていきました。
この勝海舟が、座右の銘としたことばがあります。中国の明代末の賢人、崔後渠(崔銑の異名)が残したことばですが、劉瑾(りゅうきん)という役人の間違いを諌(いさ)めたのが原因で、投獄されています。その時に、この名言を言い表したのです。
自處超然(ちょうぜん)・・・自ら処すること超然とする
世俗的な物事に拘らないで、外側から眺めるような余裕な態度と言えるでしょうか。
處人藹然(あいぜん)・・・人に処すること藹然(あいぜん)とする
雲や霞がたなびいているように、穏やかで和やかに眺められるような態度のことでしょうか。
有事斬然(ざんぜん)・・・ことが起こったときに斬然とする
一朝、事があるときはグズグズしないで活き活きとし、目的をはっきりさせることでしょうか。
無事澄然(ちょうぜん)・・・何もことが怒らないときには澄然としている
事が起こらないときは水のように澄んだ気持ちでいることでしょうか。
得意澹然(たんぜん)・・・得意なときにはあっさりし、まだ足りなく思う謙虚な気持ち
調子のよいときは、傲慢になってしまいがちなので、気をつけなくてはいけません。
失意泰然(たいぜん) ・・・失意のときは泰然自若としている
望みがかなわなく面白みのないように感じる時でも、物事に動じないで落ち着いてことでしょうか。
これは、素晴らしい処世訓ではないでしょうか。こんな生き方ができたら、人生は楽しく、意味あるものとされていくのではないでしょうか。テレビの劇中でしか会ったことがありませんが、麟太郎も、その父・勝小勝も、武士でありながらも江戸っ子気質で、飄々とした型破りの人だったようです。それでいて賢いリーダーシップをもっていたのです。徳川幕府の終焉劇のために、必要な人材でした。彼は『なすなかれ天意に違(たが)うことを!』と言い残していますが、確りと〈天意〉を認めることができ、恐れることのできた人あったことになります。大田区の洗足池の廻りを散歩していたときに、『これが勝麟太郎、勝海舟の墓ですよ!』と、友人が教えてくれました。江戸っ子にとって、勝海舟は、江戸火消しの新門辰五郎に並び称される自慢の人物だったようです。
(写真は、「勝海舟(麟太郎)」です)