週末

 

 週末の土曜日だったのですが、昨年末に開店した、近くの商業施設(モール)に出かけて、マクドナルドの店の奥の椅子に陣取って、仕事を始めました。作文の添削作業です。こちらでは、「麦当劳(マイダンラオ)」と漢字で書きます。日本ではカタカナを外来語表記に使うのですが、こちらではアルファベットも使わないで、欧米語を漢字表記するのです。時々、類推できない表記に戸惑うのですが、後になって、『アッ、そうだったのか!』と思うことがよくあります。昼頃になって、客の出入りが激しくなってきて、長居しているのを気兼ねして、1時過ぎに出てしまいました。土曜日だという意識がなく入店したので、客の出入りの多さに、改めて週末を感じたのです。

 前も横の席も、入れ替わり立ち替わり、親子連れ、とくに、仕事の休みのお父さんと学校や幼稚園の休みの子どもさんのカップルが目立ちました。実に美味しく食べているのを見て、微笑ましく思い、我が家の4人の息子たちと、こんなふうにラーメン屋などの行ったことを思い出していました。日本のように、まだ遊び場所の多くないこちらでは、新規開店のモールは絶好の親子の交わりの場なのでしょうか。このモールですが、ホノルルのアラモアナショッピングセンターにひけを取らないほどの、実に超大型のモールで、アメリカのジーンズのメーカーが、数店入っていますし、さながらシンガポールか香港、ホノルルのような趣きがあります。こちらから向うの端を見て、霞んで見えるほどの距離がありそうです。飲食店階には、日本の回転寿司と和食の料理店が入っており、一階には、「無印良品」の店もある、驚くほどの物量と客数のモールです。

 マクドナルドですが、私の恩師のアメリカ人が、ここが大好きでした。私たちが共に過ごした町の中心に、県内一の百貨店があって、その南の角に、このマクドナルドが、県内の第一号店として開店していました。用があって街中に出て行ったときに、私は2回ほど、家内も数回、この恩師が、一人でテーブルに着いて、このハンバーグを食べているのを見かけたことがあったのです。これはアメリカの文化であり、味であり、嗜好なのですから、彼としては、懐かしく、また当然のようにほおばっていたのでしょう。日本人の奥さんの手料理も好きだったのでしょうが、この味は、子どもの頃に覚えた「祖国の味」なのでしょうね。そういった一面を見て、人間として彼に安心を覚えたのを、昨日のことのように思い出されます。

 異国の地、京都で病んで、入転院を繰り返して、最後の入院先の東京の病院で召され、師は日本の土となられたのです。65歳の生涯でした。彼もまた、眼の涼しい人で、日本語の流暢な方でした。何冊もの本をアメリカと日本で書き、出版されました。内村鑑三が、名著「後世への最大遺物」で、人の生涯で、後世に残すものがあるとして、次の4つを上げています。1つは「金」、2つは「事業」、3つは「思想」、そして「勇ましい高尚なる生涯」です。「書」とは「思想」になるのでしょうか。手元に師の本があります。彼自身は、この地上にありませんが、「書」の中に、彼の価値観、人間観、人生観などが書き残されていますから、内村の言葉を借りますと、それこそ「後世への最大遺物」と言えるに違いありません。彼の一番弟子を自認する私も、「書」を残すことができるのでしょうか。読んだ「書」の中にある、知識のや思想の切れ切れを、あの本、この本から切り取ってつなぎ合わせる作業はできそうですが、終始一貫した「思想」は、なかなか残せるものではなさそうです。そうかと言って、「勇ましい高尚なる生涯」など、おこがましくて全く無理です。それならば、かろうじて、「正直に生きる」ことだけはしてみようと考えるのみです。

 マクドナルドの奥の席で、仕事をしながら、こんなことを思っていた、三月最初の週末であります。次には家内を伴って来るときには、三階の「回転寿司」に入って、その席に座し、我が祖国の味に舌鼓を打ちながら、思いにふけることにしましょう。

(写真は、帰国中度々買ってきてくれた代官山「SASA」のハンバーガーです)

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