壁を越えて

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 ある医師が、お病気で亡くなられる直前にお話になられたことを記した読み物を、隣人が家内に届けてくれて、それを今日読みました。

 『宗教を再構築しないと、死の教育とか倫理性など成立しない。この(戦後)65年間、目をそむけてきたのを反省して、正面から対峙しなければならない。宗教が一般の人間にわかりやすいレベルまで降りてこないと。』と、そこに記されてありました。

 この「宗教」に関するお考えを読んで、『宗教が一般の人間にわかりやすいレベルまで降りてこないと。』に、わたしは母の生涯を思わされたのです。母は、子どもの頃に、友だちに誘われて、カナダ人宣教師の教会の日曜学校に行くようになりました。そこで、「宗教」ではなく、「父なる神」と、個人的に出会ったのです。母は、14歳で信仰を告白して、17歳で洗礼を受けたそうです。

 宣教師家族との温かな交わりを通し、聖書を読むうちに、聖書に記された神が、《父でいらっしゃること》、しかも《わたしの父》であると知り、幼い日に亡くなったと言われてきた父がいなくとも、創造主なる神が、「真性の父」であって、このお方が自分の本当の「本物の父」だと信じる事ができたのです。

 『あなたは未婚の母の子であって、他にお母さんがいて、一緒にいる人は母ではなく養母なのだ!』と、近所の人に聞かされてたのです。父親は認知することなく去り、産み落とした母親は、自分で育てることなく、養女として、子のなかった家庭に養育を任せたのです。未成年の母親の考えなどではなく、親や親戚の事なかれ主義の考えで、事が決まってのでしょう。

 物心が付く頃に、父親は亡くなったと聞いて、母親との二人の生活の中で、寂しさを感じながらも、母に可愛がられながら育ったようです。ところがお節介な近所の人から、そのことを聞いてからの母は、生母に会いたい気持ちが日々に募っていったのです。

 17歳の時に、実母に会いに、奈良に行ったのです。会ってくれたのですが、『今の幸せを壊してほしくないから、帰ってくれ!』と言われて、涙ながらに出雲に帰ったのです。母が、養母の葬儀出席で帰郷し、葬儀を終えて持ち帰った写真の中に、実母の写ったものが、母の持ち物の中にありました。何と、爪で引っ掻いて消してしまった写真が、幾葉もあるのを見たわたしは、母の17歳の激しい感情を知ったのです。

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 二十代の初めに、父と出会い結婚し、兄を始め四人の子を産んで育ててくれたのです。親には捨てられた自分を、見守り、激励し、95歳で帰天するまで、その様な境遇を自分が与えられたことを、神が許されたことと、母は認められたのです。その神を信じ、愛し、従って天寿を全うしたわけです。

 日本の神々が、「神無月」に参集するという出雲の地は、仏教にも熱心な地でしたが、母は、そこで「父」と出会ったのです。上の学校で学びたくとも、昭和初期の地方で、しかも母子家庭の女の子は、高等女学校にも女子大へも進学はできなかったのです。街のグンゼの工場で働きながら、教会生活を続けながら生きたのです。

 母の確信は、『主イエスを信じなさい。そうすればあなたも、あなたの家族も救われます(使徒1631)』という聖書の約束でした。信じた結果、父もわたしたち4人の男の子も信仰を得たのです。

 神を信じるには、けっこう困難な状況下にありながらも、神を呪わず、神に唾することなく、信じられた母にとっては、「宗教の壁(レベル)」」は高くはなかったのではないでしょうか。宗教の壁を低くする代わりには、神ご自身が、自らを《低く》して、人の間に来て、人として生活をされて、ついには、十字架に行ってくださったのです。

 そこに母に「近づいてくれた神」がいたのです。「壁を跳び越えてきてくれた神」がいて、このお方が、母の寂しさや悔しさの中で慰め、励まされたのが、神でした。信仰の熱心さのゆえに、台湾に売られそうになる直前に、出雲警察署に保護され0るといった危機を、母は、この神と共に越えたのです。

 『あなたがたの会った試練はみな人の知らないものではありません。神は真実な方ですから、あなたがたを、耐えられないほどの試練に会わせることはなさいません。むしろ、耐えられるように、試練とともに脱出の道も備えてくださいます。(1コリント1013節)』

 母にとっては、宗教ではなく、生きていく上で、「語り掛けてくださる神」が共にいてくださった激励者で、救い主だったのです。このお方を心で「救い主」と信じ賛美し礼拝し、このお方を知りたくて聖書を読み、このお方を信じる人たちと共にいたくて教会に行き、このお方を人に伝えたくて伝道し、パートで働いたお金で献金もして、クリスチャン生活をし続けたのです。何よりも、このお方に話しかける様にして祈る母だったのです。その神を信じる生き様が、子や孫に受け継がれて今日に至っています。

(「キリスト教クリップアート」のイラストです) 

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