成績表を、教務に出して、1年間の授業を終えて、華南の私たちの住んでいた街のバスターミナルから、夜行寝台バスに乗りました。上海に着いて、上海の波止場から、大阪行きの貨客船「蘇州号」に乗って、何度か帰国したのです。
ある時、その上海で、かつての日本人街の一郭に残された古びたホテルに泊まったことがありました。戦火で焼けずに残ったホテルに違いありません。あの一郭は、昔のままだからです。まさに戦前を感じさせていました。そのホテルを出て、近くの上海灘を歩くと、タイムスリップしそうでした。
かつては辺鄙な漁村だったのですが、今や東洋一の近代都市になって、さらにどんどん広がっています。侵略だけではなく、日中文化交流もあった地でした。多くの歌に歌われています。最盛期に10万人もの日本人がいたそうです。1939年に、「上海の花売り娘」のレコードが売り出されています。
紅いランタン 仄かに揺れる
宵の上海 花売り娘
誰のかたみか 可愛い指輪
じっと見つめて 優しい瞳
ああ上海の 花売り娘
霧の夕べも 小雨の宵も
港上海 花売り娘
白い花籠 ピンクのリボン
繻子(しゅす)も懐かし 黄色の小靴
ああ上海の 花売り娘
星も胡弓も 琥珀(こはく)の酒も
夢の上海 花売り娘
パイプくわえた マドロス達の
ふかす煙りの 消えゆく影に
ああ上海の 花売り娘
よく「懐旧(かいきゅう)」と言ったりします。過去のことを懐かしく思い出すことですが、その旧日本人街を歩いていて、花売り娘も、マドロスたちもいませんし、ランタンもありませんでした。今は、東洋一の高さを誇った、上海のテレビ塔もありますし、歩いている人は彩の綺麗な服を着ていて、店に並ぶ品物は豊富ですし、車はひっきりなしに行き交っていした。
歌で聞いてきたからでしょうか、若かった父が訪ねたかも知れないと思うからでしょうか、不思議に〈懐かしさ〉を感じさせてくれたのです。匂いなんか変わってしまったのでしょうけど、昔を感じさせる〈古い匂い〉がしてきたか様でした。コロナ下、もうしばらく行かない東京の街も、全く変わってしまっていますが、坂道とか道路の曲がりとか、こんもりとした林などは、昔の風情を残してることでしょう。
あの「蘇州号」は、2020年9月末で、運行を停止してしまったそうです。『復路半額の割引券はまだ有効かな?』って心配しています。船腹の喫水線ギリギリの箇所に、「お風呂」があったのです。利用客が少なくて、時間外にドアーの鍵が空いていたので、コッソリ入ってしまったこともありました。カモメやトビオウオと競走している様に、海面を滑っていたのです。一度だけ、台風で船が前後に揺れて、流石の私も寝台に中に、逃げ込んでいました。
『コロナ騒動が終わったら、もう一度!』の夢も、いつ叶えられか分かりませんが、それにしても、そろそろ終息しないかな!
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