ついぞ縁も所縁(ゆかり)もないのですが、この写真の「中村吉右衛門」に、近いものを、私は感じるのです。歌舞伎の名門に生まれ、歌舞伎の道に精進し、「人間国宝」にもなった方です。もうだいぶ前になりますが、この方が主演されたテレビ番組、「鬼平犯科帳」で、幕府の火付盗賊改方長官、長谷川平蔵を演じていました。昔、若かった彼が、海軍兵学校の学生役も演じていて、その映画を観たこともありました。
と言うのは、同じ年に生まれ、同じ時代の風の中を生きたという近さなのです。褒賞や叙勲には全く縁のない私で、日本政府も生まれ故郷も、一顧だにしてくれない平々凡々を生きた私ですが、日中戦争の晩期に生まれ、物の欠乏の中に育ちましたが、自由の空気を吸いながら大きくなった同世代が、この方です。
この方は東京の都会で生まれ育ち、私は山の織りなす山村で生まれ、隣の渓谷の奥の村で育ったのですが、荒廃の中から立ち上がって行く父の世代のたゆまぬ勤勉さの中で、大人になれました。この方と私の父親も、同じ年の生まれで、彼は次男、私は三男でした。名門の生まれでも、無門の生まれでも、両親の愛を受けて育てられたことに、ただ感謝するだけです。
彼に、私が勝っているのは、四人もの子の親であることと、海外に雄飛できたことでしょうか。そんな機会はないのでしょうけど、いつかお会いしてみたいと思うのです。そういえば、同級生たちと、随分疎遠のままなのです。一昨年、中高を一緒にした同級生と、相模原で会いましたが、話して行くうちに、色々と思い出すことが多かったのです。やはり、人恋しい年末なのでしょうか。
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